「焼き菓子×ナチュールワイン」という、新しい楽しみ方を提案するカフェ「焼き菓子TOROkko」。ワインと合わせることで、焼き菓子はまったく新しいおいしさをのぞかせるといいます。なぜこのふたつに行き着いたのか。TOROkkoの出発点を探ります。

 

ただ自然な流れに乗って。導かれるように生まれた、TOROkko

鎌倉駅前の賑わいから少し外れた静かな住宅街。JR横須賀線のすぐ線路脇に立つ「焼き菓子 TOROkko(トロッコ)」は、お菓子職人の原田郁未(はらだ いくみ)さんと、コーヒー焙煎士の安曇(あずみ)さんご夫婦が営む小さなカフェです。

これまで北鎌倉でアトリエを構えながら、焼き菓子とコーヒーを軸に卸販売やイベント出店で活動を続けてきたふたりがこの地にやってきたのは2019年10月。ナチュールワインを3つめの軸に加え、TOROkkoはカフェとしての道を走り始めました。

「実はもともとは美容師でした」。そう話す郁未さんは、岩手県盛岡市の出身。就職を機に上京し、はじめて目にした華やかな“東京のカフェ”に「こんな世界があったんだ!」とたちまち心を奪われたといいます。都内や関東近郊のカフェを巡ってはみるみる惹き込まれ、転身を決意。複数のカフェで経験を積むうちに自分が好きなものとして行き着いたのが、焼き菓子でした。

「材料を混ぜたり、温度を調節しながら焼けるのをじっと待ったり、焼き菓子に関わる一連の流れが好きなんです。焼き上がったあとも少しずつ味わいが変化して、さまざまなおいしさが楽しめるのは焼き菓子ならではですよね」と、目を輝かせます。

カウンターに並ぶ焼き菓子。「レモンケーキ」や「マドレーヌ」、「レーズンバターサンド」などがズラリ。

北鎌倉に移住してフリーランスの菓子職人としての活動を始めると、友人が営むカフェや近くのギャラリーでお菓子の販売を開始。「TOROkko」という屋号は、自宅前のお気に入りの道がトロッコ道のようだったことにちなんで付けました。「卸販売やイベント出店は、ごく“自然な流れ”で始めた」としながらも、当時の現場経験が今、とても大きな財産になっていると振り返ります。

夫の安曇さんが焙煎するコーヒーとともに焼き菓子の販売を続けて約5年半が経ったころ、「ここでお店をやってみない?」と声をかけられたことが転機に。念願のカフェオープンに向けて動き始めたのです。「嬉しかったよね」と、顔を見合わせて微笑むふたり。「本当に、いいご縁に恵まれてばかりです。TOROkkoは、多くの方に導かれて生まれたと思っています」。

 

焼き菓子とワイン。それは自分にとって、日常の楽しみ方

カフェを始めることが決まったとき、ふたりはこれまでの焼き菓子とコーヒーに、もうひとつ新しい要素を加えました。それが、ナチュールワインです。理由をうかがうと、郁未さんからはふたたび“自然に”という答えが。

「普段から、自分が焼き菓子とワインという食べ方をしていたので、特別なことをしているつもりはありませんでした。『お店を持つんだ。じゃあ、お菓子に合うワインがほしいな』と。気がついたら近くの酒店に相談しに行っていましたね。これまで働いてきた店でそういうお客さまを見ていたことや、わたし自身が根っからのお酒好きだからかな(笑)」。

和菓子店には日本茶が、喫茶店にはコーヒーと紅茶があることが当たり前であるように、彼女のなかでは焼き菓子店にワインがあることが“自然”だったのでしょう。何気ない一言ですが、この“自然に”という言葉からは、けっして無理をしたり自分の意志に反したりすることなく、郁未さんが自分の好きなことにまっすぐ向き合ってきたことが伝わってきます。

安曇さんも隣で頬をゆるめて頷きます。「よくふたりでカフェに出かけていたころも、明るい時間から『ワインとガトーショコラ』なんてオーダーをしていましたよ。僕はお昼にワインと焼き菓子なんてちょっとした贅沢な気がするけれど、だからこそ今はそれを楽しみに来てもらえれば嬉しいと思っています。お客さまを見ているといつも羨ましい限りです(笑)」。

 

ワインに見出した「日を追うごとに味が変化する」という焼き菓子との共通点

ワインは850円(税込)〜。

ワインは、由比ヶ浜で100年以上続く老舗「鈴木屋酒店」の協力のもと、試飲や相談を重ねて“焼き菓子に合う”ものをセレクト。まだまだペアリングの理論は勉強中という郁未さんですが、お菓子とワインを同時に口に含んだときの「おいしい!」という感動を大切にしていると話します。

「理屈は抜きにして、まずはぜひお菓子の生地にワインを染み込ませるように飲んでみてほしいです。バターの香り、果実のフレッシュ感、小麦の香ばしさ、チーズのコク……。ワインと合わさることでそれらが一気に花開いて、そのまま食べるのとはまったく違う味わいに変化するんですよ」。

ワインとのペアリングが楽しめる「焼き菓子3種の皿」900円(税込)。この日は「島田農園ルバーヴのタルト」「ベイクドチーズケーキ」「ブールドネージュ」。

はじめは自然とワインを取り入れた郁未さんですが、鈴木屋酒店と関わり、ワインを深く知るに連れてその向き合い方に変化が。「ワインも、焼き菓子と同じように日を追うごとに味が変わるんです。おもしろいですよね、同じワインとお菓子なのに、翌日にはどちらもちょっとずつ味が変わっているなんて。合わせ方に悩むこともありますが、知れば知るほど惹かれていきます」。

店内で提供する「焼き菓子3種の皿」に合わせて、今日はどのワインにしようと悩むのも楽しいと語る郁未さん。味わいに限らず、ワイナリーや生産者にまつわるストーリーもお客さまに伝えられるようになりたいと、探究心は高まるばかりです。

 

より“過ごす”ための場に。販売店ではなくカフェである理由がそこにある

冷やして提供する「朝焼き ドライクランベリー&ホワイトチョコスコーン」380円(税込)は、この夏の新作。

そんな「焼き菓子とワイン」を謳うTOROkkoですが、あえてワインに合うようにお菓子の味を変えたりアレンジしたりすることはありません。柱は、あくまで郁未さんがおいしいと思う焼き菓子。だからこそ、「焼き菓子に“合わせる”のはコーヒーも同じ」と、焙煎を手がける安曇さんはいいます。「コーヒー単体で飲むことより、季節のフルーツのタルトやシンプルな小麦のお菓子と一緒に召し上がっていただくことを想定して味作りをしています。ほんの少し果実味が感じられ、香ばしさが立ったスッキリとしたコーヒーが理想です」。

今後は、より過ごすことを楽しめる場にしていきたいというふたり。カトラリーがお皿に触れる音や話し声、時には無音であることから、それぞれのお客さまが自分の時間を楽しんでいる様子が感じられる、そんな「空間」としてのカフェが好きだからだと話してくれました。

時折、ガタンゴトンとすぐ裏を走る電車の音も、TOROkkoの心地よい空間づくりを後押ししてくれることでしょう。焼き菓子、ワイン、コーヒー。3輪で走る小さなトロッコ列車は、ゆっくりと進み続けます。

 

◾️ 焼き菓子TOROkko(トロッコ)
住所:神奈川県鎌倉市扇ヶ谷1-14-5
営業時間:10:00〜16:30
定休日:日・月・水・木曜日
HP:https://www.torokko-h.com
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