創業10周年を迎えた「ONIBUS COFFEE」が2022年4月、ブランド初のカフェスタイルの店舗「ONIBUS COFFEE 自由が丘店」をオープンしました。東京を代表するロースターとして常に前に進み続けてきたオニバスのオーナー・坂尾篤史さんが今、カフェを通じて伝えたいこととは——。

コーヒーを軸に食事、デザート、お酒まで。街に溶け込む“オニバスらしいカフェ” を目指して

「“暮らしの中にカフェがある”。そんなオーストラリアのコーヒーカルチャーに衝撃を受けました。」

6年前のCafeSnapのインタビューでそう語っていた「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」のオーナー・坂尾篤史さん。

2012年に東京・奥沢の線路脇で、1台の焙煎機と3席のイートインスペースを備えただけの小さなコーヒースタンドとしてスタートしたオニバスコーヒーは今年1月、10周年を迎えました。

現在、系列ブランドを含めると国内外に全8店舗を展開するほか、都内を中心に多くのカフェやレストランへホールセールを行うなど、日本のコーヒーシーンを席巻してきたオニバス。この10年間、スタッフや生産者などさまざまなパートナーと二人三脚で常に歩みを進めてきた坂尾さんは、時代を切り開いてきたひとりといえるでしょう。

そんなオニバスが今年4月、より幅広い人々の暮らしに溶け込む場所をつくりたいと新たな一歩を踏み出しました。それが、ブランド初となるカフェスタイルの店舗「ONIBUS COFFEE 自由が丘店」です。

「僕に限らず、チームメンバーの多くがオーストラリアや欧米のコーヒーカルチャーをリスペクトしています。10年という節目に、スタート地点である奥沢からほど近い自由が丘の街にご縁をいただいたことも重なって、ここで“オニバスらしい街のカフェ”をつくってみたいとチャレンジを決めました。

美味しいコーヒーを軸に、食事とデザートがオールデイで楽しめて、ナチュラルワインやクラフトビールも飲める。そんな、街の誰もがいつでも立ち寄れる日常のカフェでありたいと思っています」

今までのスタンドスタイルから一転、自由が丘店ではシェフやレストランパティシエを迎え入れ、コーヒーと焼き菓子に加えてハンバーガーやデリプレート、アシェットデセールなどをオンメニュー。さらにはワインのペアリングイベントを開催するなど、多様なカフェの楽しみ方を提案します。

オープンから8ヵ月。坂尾さんの思いは少しずつ、しかし着実に街の人々に届き始めています。取材に訪れたのは小雨が降る平日の昼下がり。にも関わらず、店内にはベビーカーを脇に置き遅めのランチを楽しむお母さんや、買い物帰りのコーヒーブレイクに訪れた年配のご夫婦、スイーツ片手にひとり読書にはげむ外国人のお客様など、終始多くの方で賑わいをみせていました。

 

キーワードは「循環」。“いいコーヒー屋”の本質を問い続けたどり着いたひとつの答え

カフェをつくるにあたり、坂尾さんがこの店の軸に据えたひとつのメッセージがあるといいます。それが“循環”。作る → 売る → 捨てるの一方通行になりがちな消費の世界をできる限り循環させ、自然環境のサイクルや人の輪をつくっていきたいというのです。

オニバスコーヒーではこれまでにも、リユーザブルカップサービス「CUPLES(カプレス)」の開発や、コーヒーかすを培養土やコーヒー石鹸にアップサイクルさせる取り組みなど、さまざまなサステナブルな仕組みづくりを行ってきました。しかしそれは、けっして環境問題への危機感を必要以上に駆り立てたいからではありません。オニバスコーヒーのブランドビジョン“コーヒーで、街と暮らしを豊かにする”ための本質を問い続けてきた結果のひとつだと、坂尾さんはいいます。

左が「CUPLES」。コーヒーを飲み終わったら各加盟店に返却することができ、繰り返し使用される

「コーヒーを美味しいと喜んでいただけることは何より嬉しいし、お客様にはその時間を純粋に楽しんでほしい。ただ僕にとっては、それだけでは“いいコーヒー・いいコーヒー屋”といえません。『美味しい』はあくまで一要素でしかないからです。

もしこの美味しい一杯のために、どこか見えないところで、誰かが・自然が、犠牲になっているとしたら? もし今コーヒーをつくり続けることで将来コーヒーが飲めなくなる環境になっているとしたら—— ? 本当の意味で『暮らしを豊かにするコーヒー屋』といえるでしょうか。事実、各産地では大規模なコーヒープランテーションをつくるために熱帯林が伐採され、甚大な環境負荷が懸念されている。だからいつも、自分に何ができるかを考え、できる限りでいいからできることは実践したいと思っています」

自由が丘店にはこの“循環”の考え方を集約し、これまで築いてきたさまざまな人の輪を紡ぎながら店づくりを進めてきました。

たとえば、テイクアウト用のリッド(蓋)やストローにサトウキビの搾りかすからつくられたバガス素材のものを採用することはもちろん、イートインのお客様にはリサイクル陶器を20%含んだオリジナルカップで提供。

また、店内に心地よいぬくもりを生み出しているたくさんの木材は、スタッフと共に数日間山に入り、坂尾さんら自らが切り出した間伐材なのだそう。知り合いの林業者を頼りに、健全な森林を保つために必要とされる間伐の意義や、切り出された木々の活用問題などを一から教わったといいます。環境によいといわれるモノをただ使うだけでなく、その背景を知りそこに携わる人の声を大切にすることも、坂尾さんなりの“本質”のひとつ。

「僕が今こうしたマインドを持っているのは、間違いなくコーヒーがきっかけ」と語る坂尾さん。流通を透明化するというスペシャルティコーヒーならではの考え方の中で、生産方法を学んだり、産地の風土・環境、欧米のオーガニックカルチャーに触れたりするうちに、コーヒーを売る人間としてまずは農業や土壌のことを知らなければいけないという考えに至ったのだと教えてくれました。

「知り合いや仲間がつくったものを寄せ集めているので、美しく整った統一感はないかもしれないけど、それも個人店らしいかなと思っています」

ほかにも、厨房で出た野菜や果物の皮、フィルターコーヒーのコーヒーかすは自由が丘店の裏のコンポストで堆肥に変え、その肥料で育てられた有機野菜を店で使ったり販売会を行ったりといった活動も。そしてこうした店づくりに必要なひとつひとつのパーツが、坂尾さんの友人や、オニバスと関係が深い、身近な人たちの輪でつくられているのです。

コンポストの中を手で触ってみるとあたたかく、50℃ほどあるそう。微生物の働きにより発酵・分解されることがわかる

 

届けたいメッセージはいつも同じ。「美味しいコーヒーを楽しんで!」

「ただ僕らはあくまで、コーヒー屋です。何かこれまでと違う特定のメッセージを発信したいわけでも、大きく世界を変えようとしているわけでもありません。いちばん届けたいのは、『カフェやコーヒーを楽しむ時間』。それは変わりません」

自身も大きな影響を受けたオーストラリアのカフェとの出会いを思い出しながら、街の人に親しんでもらえるようスタッフと一丸となって開発したメニューは、自信作ばかり!

欧米ではポピュラーな、朝からしっかり食事ができるブランチプレートや、ケールをメインに使った季節のサラダが楽しめることがここ自由が丘店の大きな特徴です。今の時季のサラダは、ババガヌーシュ(茄子とごまのペースト)の上にソテーしたかぼちゃ、カリフラワー、ポーチドエッグなどをのせ、自家製のデュカ(スパイスとナッツの調味料)で仕上げたボリューミーな一皿。

野菜は主に、コンポスト肥料の提携先である「奈良山園」(東京・久留米)や、POP UP SHOPの出店を機につながった「HASUNE FARM」(東京・練馬)などの有機野菜を、添えられたサワードウブレッドは、坂尾さんの友人である「奥添製パン」(福岡・糸島)のものを使っているのだそう。

「オータムケールサラダ」(税込 1320円)。有機小麦・天然酵母・塩・水だけでつくられたシンプルなパンは噛めば噛むほど味わい深さが増す

もちろん、焼き菓子とコーヒーというこれまでのオニバスらしい楽しみ方も。しかしここにも、全国の有機農家の旬の素材を使用したり、「よいものは伝え使っていく」という視点からカトラリーやプレートはビンテージものを集めたりと、人や自然の循環を感じさせる一面が。

この日の「ヴィクトリアサンドイッチ」(税込 638円)には和歌山県「藏光農園」のみかんジャムを使用。クラシカルなプレートはフランスアンティークのもの

「想像はしていましたが、やっぱりカフェはめちゃめちゃ大変です(笑)。コーヒーのほかに、キッチン、パティスリーとセクションが増えた分、コミュニケーションもより重要になりますし、単純に仕入れ先や必要なアイテム、人員も何倍にもなりますからね。でもその分、表現できることはたくさんある。まだまだやりたいことだらけです!」

 

“本質的なコーヒー屋”であることで、暮らしも街も自然と豊かになる

最後に次の10年の展望をうかがってみると、「未来は僕にもわかりません(笑)」と笑って見せた一方、「”本質的なコーヒー屋”を続けていけば、僕らの意思はかならずお客様に伝わり、自然といい街になっていくと信じている」と話してくれました。

すでに、これまでの取り組みに賛同してくださるお客様や仲間が少しずつ増えていることを実感しているという坂尾さん。自分たちの考えを無理に押し付けなくても、来てくださったお客様がオニバスのビジョンに共感し、その輪が広がっていけば、暮らしも街も自然と豊かになるのではといいます。

「漠然とした理想だけいえば、産地の生態系を守ったり復活させたりしながらコーヒー生産をできるブランドになれたらいいなと思っています。本来、森は自分の力で勝手に再生していくものですが、人が手を貸してあげることでそのスピートを早めることも、よりよくできることもある。

僕にとってコーヒーは、美味しくてホッとするものであると同時に、農業や自然との距離を近くしてくれたものでもあります。お客様の中にも同じように、コーヒーの生産地に思いを馳せてくれたり、『週末は有機の野菜にしてみよう』『農家さんとつながったよ』『コンポスト始めてみたよ』と行動してくれたりする方が生まれたら嬉しいですよね。その連鎖がきっと、自然と街全体を豊かにしていくと思うんです」

 

◆ONIBUS COFFEE 自由が丘店
住所:東京都目黒区緑が丘2丁目24-8 arbre自由が丘
TEL:0467-61-0233
営業時間:9:00〜17:00
定休日:不定休
HP:https://onibuscoffee.com
SNS:https://www.instagram.com/onibuscoffee_jiyugaoka
CafeSnap みんなの投稿>> https://cafesnap.me/c/15956

 

取材・文 RIN
写真 佐山 順丸

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