2022年1月に東京・下北沢にオープンした、仏・パリ発のスペシャルティコーヒーロースター「Belleville Brûlerie TOKYO」。創業者デイビッドさんが来日し、Belleville TOKYOの代表を務める佐藤成実さんを交えてスペシャルトークイベントが開催されました。パリ本店の創業ストーリーやフランスのコーヒー文化、そして東京店に込めた想いとは。
フランス・パリにおけるスペシャルティコーヒーのパイオニア、「Belleville Brûlerie Paris(ベルヴィル ブリュルリー パリ。以下、Belleville Paris)」が、海外初店舗となる「Belleville Brûlerie TOKYO(以下、Belleville TOKYO)」を2022年1月に東京・下北沢にオープンしてから10ヶ月。ついに創業者デイビッドさんが来日し、日本のファンと交流を深めました。
10月16日には、CafeSnap代表・大井がファシリテーターを務めるトークイベントを開催。Belleville TOKYO代表の佐藤成実さんを交え、Bellevilleの創業ストーリーやビジョン、ブランドの軸である「ブレンド」に込めたメッセージを語りました。
David Nigel Flynn(デイビッド・ナイジェル・フリン)さん
アメリカ生まれ、フランス・パリ在住。2013年にスペシャルティコーヒーロースター「Belleville Brûlerie Paris」を創業。同店は、2017年の英国版「GQ」で「The 5 best coffee shops in the world」に選出されている。2019年にミラノで開催された焙煎大会「Roast Masters」で優勝。現在はBelleville Parisでブランディングと生豆の仕入れを担当。
佐藤 成実(さとう なるみ)さん
「Belleville Brûlerie TOKYO」代表兼ロースター。2013年よりスペシャルティコーヒーに携わり始め、サイフォニスト、バリスタ、ロースターとして活躍。「ジャパンサイフォニストチャンピオンシップ 2016」「ワールドサイフォニストチャンピオンシップ2016」でそれぞれ優勝の実績を持つ。
デイビッドさんが語るBelleville創業ストーリー。美食の街で挑んだ、コーヒーカルチャーのアップデート
― デイビッドさん、日本へようこそ!
デイビッドさん(以下、デ)ボンジュール! Belleville TOKYOのオープンから10ヶ月が経ち、ようやく日本に来ることができて今とても興奮しています。何より、日本のコーヒーファンの皆さんがこのイベントに足を運んでくださったことが本当に嬉しい! 今日は一緒に楽しい時間を過ごしましょう。
― 今回、Bellevilleブランドの海外初進出の場が日本ということなのですが、デイビッドさんはこれまでにも日本に来たことはあるのですか?
デ)もちろん、旅行などで来たことがあります。ただ、日本にはそれ以前から親近感を持っていました。というのも僕の母はイギリス人なのですが、昔東京で暮らしていたことがあるんです。
日本には独自の伝統や文化が息づいている上に、美食に対する意識が高く味覚も研ぎ澄まされている。また、ここにいる成実やBelleville TOKYOのクルーたちのように、人々のホスピタリティにはいつも感動させられます。そんな理由から日本を選びました。
― ありがとうございます。ではまずはBelleville Parisの創業ストーリーに迫っていこうと思います。最初に、デイビッドさんがバリスタになられた理由から教えてください。
デ)当時、僕はアメリカの大学に通っていて、それはそれはもう学生生活をエンジョイしていました。そのおかげで、1年分のお金を2ヶ月で使い切ってしまったんです……。どうしようと母に相談するとこういわれました。「もちろんあなたのことは愛しているわ。でも、自分で働きなさい!」と(笑)。それで、ワシントンDCにある小さなコーヒーショップで勤め始めたのが2005年です。
これは本当に偶然だったのですが、その店は世界的にも高い評価を受けている名誉あるコーヒーショップでした。クルーみんなの知識や技術が豊富で、扱っている豆のクオリティも高く、とにかく美味しい。ものすごくラッキーでしたね。そこでトレーニングを受けられたことは僕の大きな財産になっているし、今もいい影響を与えてくれています。
― 運命の出会いだったんですね。大学を卒業してからパリに移住されたとうかがいましたが、当時のパリはカフェやコーヒー文化が盛り上がっていたのですか?
デ)母がイギリス出身ということで大学を卒業したらヨーロッパに住んでみたいと思っていました。ちょうど友人が住んでいたことも重なってパリを選んだので、もともとコーヒーのために移住したわけではないんです。
もちろん当時のパリには、単純に“コーヒーを飲む場所”としてであれば、カフェはたくさんありました。100年、200年と続く老舗もあり、コーヒー文化は非常に根付いていましたよ。ただ、コーヒー豆の産地や生産者を厳選したり、豆の個性を引き出す焙煎をしたりするスペシャルティコーヒーの文化はほぼありませんでした。
だからこそ、可能性を感じたんです。なんせ美食の街ともいわれるパリ! この街なら、必ずスペシャルティコーヒーは受け入れられるはずだと。
― Bellevilleはまさにパリのスペシャルティコーヒーカルチャーのパイオニアとなったわけですが、どのようにして広めていったのでしょう?
デ)はじめに、スペシャルティコーヒーのことを伝えたり話し合えたりする小さな協会をつくりました。イベントを行って、スペシャルティコーヒーの魅力をたくさんの人に知ってもらう機会をつくることからスタートしたんです。同時に、Bellevilleの前身となる小さなコーヒーショップもオープンして、実際に味わえる場もつくりました。
ご存知のとおり、フランスにはフランス料理やワインに代表される伝統的な素晴らしい食文化があります。産地の風土や生産者の個性を大切にするテロワールの考え方などもうまくコーヒーに取り入れてアプローチをかけていきました。
― パリの皆さんにはすんなり受け入れられましたか?
デ)幸い、フランス人は美味しいものにお金を惜しみません。それはこの街のいいところであり、リスペクトすべき文化です。ただ、当時のフランスにはまだ「コーヒー=薬」という考え方が残っていて、「薬を飲む」という考え方から「味を楽しむ」という思考にいかに変化させていくか……、なかなか苦戦しました。
フランスはエスプレッソ文化ということもあってコーヒーは苦いものだというイメージが浸透していましたから、逆にドリップからのアプローチに力を入れたんです。フィルターコーヒーに対してはあまり先入観がなかったので、別のものとして受け入れやすかったのだと思います。
― 今、フランスのコーヒー事情は当時と変わりましたか?
デ)僕がフランスに来てから13年、パリの街中には今スペシャルティコーヒーショップや専門店があふれています。とても活気があり、僕も毎日が刺激的です!
百年先も受け継がれていくコーヒーのために取った、「ブレンド」という選択
― ここからは佐藤さんにも加わっていただき、Bellevilleが主軸にしている「ブレンド」の考え方についてもうかがっていきたいと思います。佐藤さんはBelleville TOKYOの立ち上げの際、トレーニングのためにパリに行かれたんですよね? どんなことを学ばれたのですか?
佐藤さん(以下、佐)Belleville Parisの焙煎や抽出の理論・技術はもちろん、彼らのコーヒーに対する考え方、提供している6種のブレンドに込められたメッセージ、それから実際にどんなお客さまが店に来られていて、どんなクルーが働いているのかを肌で感じてきました。
― そのブレンドを主軸にBellevilleは商品展開をしているわけですが、スペシャルティコーヒーを使ったブレンドに注力しているのはどのような理由からなのでしょう?
デ)実は2013年にBelleville Parisをオープンしたときはまだ、ブレンドは1、2種類しかなく主力商品でもありませんでした。今のようにブレンドに大きくシフトチェンジしたきっかけは、フランスを代表するブランデー、コニャックを造るスターセラーとの出会いにあります。
コニャックは、一定の品質や味を保つためにさまざまな熟成年数の樽で仕込んだものをブレンドして商品を完成させるのが一般的です。その仕込みや配合を取り仕切るのが“マスターブレンダー”と呼ばれる人。マスターブレンダーが何をどうミックスするかで、最終的な仕上がりは大きく変わります。またそれ以前に、ブレンド前の個々の樽をいかにいいものに仕上げるかも、いいコニャックを造る上ではとても大切なことだと彼は教えてくれました。
いい原料を使い、最高のブレンダーが味を守ることで何百年と受け継がれるものになっている……。そんなコニャックのブレンドの考え方や、特有の芳醇なフレーバーにとても感銘を受けました。「コニャックのように、何百年と続く伝統的なブレンドコーヒーをつくりたい」「フランスのスペシャルティコーヒーに『ブレンド』という新しい価値観をもたらしたい」と、ブレンドに軸を移すことを決めたんです。
ただ当初は、シングルオリジンが主流だったので、お客さまも戸惑いを隠せない様子でしたね(笑)。でも彼らの要望はけっして、「ある特定の産地の豆を飲みたい」ではなく、「朝はクリアな一杯、午後はボディのあるものがいい」というもの。彼らの求める美味しさを提供してくれることを望んでいるのです。
それに応えることができるよう、約2年かけて6種類のブレンドをつくり上げました。研究してテイスティングしてを繰り返し、何度もチャレンジしながら味に磨きをかけてきたことで、それぞれユニークなキャラクターをもったブレンドを完成させることができました。
― そして7つめのブレンドが、Belleville TOKYO限定の「La Tradition(ラ・トラディション)」というわけですね。
佐)はい、トレーニングのためにパリに行ったときにわたしが「新しいブレンドをつくろう!」と提案したんです。Belleville Parisのブレンドは焙煎が浅めでフレーバーが明るい印象ですが、日本ではもう少し深煎りが好まれるだろうなと思っていました。そこでデイビッドに、よりダークなブレンドをつくりたいとお願いしたら、「僕も喫茶店のコーヒーは好きだよ!」と共感してくれました。
デ)成実のアイディアを受けて、喫茶店文化をどのようにスペシャルティコーヒーに取り入れるか、ふたりでたくさん相談しました。というのも、喫茶店のように深煎りにするとコーヒーの味はフラットになりがちです。深煎りかつ奥行きのあるフレーバーを楽しめる “スペシャルティ喫茶店ブレンド”をどのようにつくるかが、重要なポイントでした。
佐)「ラ・トラディション」は、日本人に馴染みある味わい深い美味しさで、でもちゃんと甘さもユニークなフレーバーが感じられる。そんなブレンドです。
デ)成実が教えてくれた“koku(コク)”の概念はとても勉強になったよ!
― 少し話しは逸れますが、Belleville TOKYOではサイフォン抽出でも提供されているんですよね。
佐)はい、これもわたしが提案しました。サイフォン抽出を味わえるのも東京店だけです。
デ)Belleville TOKYOには、世界一に輝いたサイフォニストが2人いますからね。数年前に成実がパリに来たときは僕が成実にトレーニングをしたけれど、今回は僕がサイフォンを学んで帰ろうかな。2日後くらいに来てくれたら、僕がここでサイフォンを使って淹れてるかもしれません(笑)。
― ほかの6種のブレンドは、東京とパリとまったく同じなのでしょうか?
佐)Belleville TOKYOで提供しているブレンドはすべて、日本で焙煎しています。というのも、日本人とフランス人では味の感じ方が違いますし、それ以前に軟水と硬水という違いもあります。まったく同じ豆を使って同じように抽出しても、Belleville Parisが各ブレンドで表現したいイメージがきちんと伝わらないんです。
たとえば「Le Mistral(ル・ミストラル)」というブレンドは「季節風」という意味を持ち、明るい爽やかな風というコンセプトがあるのですが、そういった各ブレンドのコンセプトはわたしがしっかり受け継いだ上で、日本の水を使って日本の方がそう感じるような焙煎・ブレンドに仕上げています。
デ)ここ数日の間に成実が焙煎したコーヒーを何度も飲んだけど、素晴らしい調整がされているよ。
― 各国のお客様の舌や土地の特徴に合わせて、微妙にニュアンスを変えているのですね。その意味でいうと、Bellevilleにとって“美味しいコーヒー”の定義とは?
デ)2つの要素があります。ひとつはスウィートネス。しっかりと甘みを感じるものであること。ふたつめはバランスです。甘みと酸味、ローストによる苦味とフレーバー、そのすべてがバランスよく整ったものが、僕の考える美味しいコーヒーです。
― ありがとうございます! では最後に、今後の展望を聞かせてください。
佐)まずはBelleville TOKYOをここ下北沢の街に根付いた店にしていきたいと思っています。日本で愛され続けてきた喫茶店のように。
デ)そうだね。そのためにも、Belleville TOKYOをできるだけBelleville Parisと同じように楽しめる場にしたいと僕は思っています。素晴らしい日本のクルーの知恵や技術を、もっと直接お客さまにお届けしたり、逆にお客様からのフィードバックを商品づくりに活かしたり。皆さん、ぜひいいアイディアがあったら僕らにシェアしてくださいね!
Belleville TOKYOでは今はまだ4種類のブレンドしか提供できていませんが、近いうちにより多くのブレンドをお届けするつもりです。パリと東京の差をなくす、それが直近の計画です。
今日は最後まで聞いてくれてありがとう。ぜひ、Bellevilleのコーヒーを、そしてこれからも毎日のコーヒーライフを楽しんでください。
◆Belleville Brûlerie TOKYO
住所:東京都世田谷区北沢2-21-22 (tefu)lounge1F
TEL:03-6450-7061
営業時間:10:00〜20:00
定休日:第1火曜日
HP:https://belleville-japan.com
CafeSnap みんなの投稿>> https://cafesnap.me/c/15829
通訳 西原拓未
写真 吉松伸太郎
取材・文 RIN
インタビュー 大井彩子(CafeSnap)