鎌倉・長谷の小道に佇む喫茶店「HASEROJI」。お菓子や紅茶、家具ひとつひとつに至るまで、ここにあるすべてのものは、店主・中山祐里さんがこの先もずっと長く愛し続けたいと願うものばかり。上質な美しさを持ち、彼女の深い愛情が注がれたハセロジには、温もりある時間が流れています。

 

「ずっと愛し続けられるものだけで埋め尽くしたい」

“一生モノ”と思えるほど、愛せるものがありますか? 家具、器、お菓子、紅茶、コーヒー、本……。多少、色褪せても、傷がついても、それも味わいのひとつ。手入れをしたり、時には少し見返したりすることでより愛着が湧き、いっそう愛おしくなるものです。

北から少しずつ紅葉の便りが届き始め、鎌倉のもみじもまもなく見頃を迎えます。今回訪れたのは、そんな紅葉の名所としても知られる鎌倉・長谷寺からほど近くの路地に佇む「HASEROJI(ハセロジ)」。

「わたし、和モダンが好きなんです」

店主・中山祐里さんのその言葉に、思わずうなずかずにはいられません。一見すると小さな美術館のようにも見える端正な外観でありながら、足元に控えめに立つ看板や、通りからやや奥まって設けられた入り口の格子戸からは、どこか古都・鎌倉らしい慎ましやかな風情も感じられます。

ガラリと引いた扉の先に広がるダイニングルームのようなあたたかなモダンな一室、太陽光が射し込む坪庭を目にすれば、つい声が漏れてしまいそうになるほど。

かつては和フレンチの店で働いていたこともあるという中山さん。いつか店を持ちたいと夢見ていた彼女が、喫茶というかたちでそれを現実のものとしたのは2019年5月のことでした。プライベートや仕事、資金繰りなどさまざまなタイミングが重なり一念発起。「すべて自分の手が届く範囲で、納得してお客様に届けられるスタイル」として選んだのが、喫茶店だったといいます。

「不器用なので、食事もスイーツもといろいろ手を広げたり、トレンドに敏感に対応したりするのが苦手なんです。だからこの場所にも、この先もずっと変わらず、自分が自信を持って長く愛し続けられるものだけをそろえることにしました」

もともと喫茶店やカフェ好きで、昔からいろいろなお店に足を運んでいたそう

そんなハセロジの店づくりは、建物そのものの建設からスタート。当初は、一般的な店と同様にテナント物件を探していたといいますが、鎌倉という土地柄条件は厳しく、高額な賃料などを考慮するとなかなか踏み切れなかったと振り返ります。

「だったら初期投資は大きいけれど、長い目で見て資産として一から建ててしまった方が賢い選択なんじゃないかと思ったんですよね。担当してくれた建築士さんには、わたしが思い描くイメージの喫茶店に一緒に行ってもらったり、言葉にならない理想や要望を伝えるために何度も打ち合わせしたりと随分ご苦労もおかけしましたが、とても親身になって仕上げてくださいました」

店の奥に設けられた隠し部屋のような個室は、お気に入りの蕎麦店にあるプライベートルームからインスピレーションを受けたものだそう。アンティークのソファに腰掛ければ、ちょうど目の前の小窓から坪庭が覗けるという演出も、なんとも粋なものです。

 

経年変化も味わいのひとつ。自然に抗わないからこそ生まれる深みがある

自身にとって喫茶店は、リラックスできる場所だという中山さん。店を訪れたお客様にも「来てよかった」と穏やかな気持ちになって帰ってもらいたいと話します。

「テーブルやスツールは、オイル塗装の無垢の木で造ってもらいました。肌に馴染む無垢の木の風合いの気持ちよさは、やっぱり格別。今座っていただいている椅子も、お尻の部分がちょっと沈んでいるのがわかりますか? このひと仕事があるから、硬さのある木でも案外座り心地がいいんですよ」

近年の木工家具は、水や傷に強いウレタンコーティングが主流です。特別な手入れの必要がなく安価で手に入りますが、どうしても木そのものの肌触りとは異なるツルツルとした感触になり、また長年使えばコーティングが剥がれ艶や美しさが失われてしまうもの。

一方で中山さんが好むオイル塗装の木は、木本来の味わいが楽しめる反面、水に弱く場合によってはひび割れや反りを起こす可能性も。しかし、たくさんの方に使ってもらえばもらうほど、傷や輪染みが着くのも、多少どこかが欠けたり色褪せたりするのも当たり前だと彼女はいいます。それが自然で、“味わい”のひとつ、と。

無垢の木は、定期的にオイル塗りのメンテナンスを施すことでまた美しさを取り戻し、さらには塗り重ねるごとに艶も強度も、そして深みも増していくのだそう。「ずっと、長く付き合えるもの」——。中山さんのはじめの言葉には、こうしたひとつひとつの家具への愛情も込められています。

カウンターのスツールもオーダー品。この席からも坪庭が望める

もちろん実際には、どれほどのお客様がこれらの細やかな職人技や木の質感に気がつくかはわかりません。それでも、ハセロジが作り出す喫茶店らしいやわらかな空気は間違いなく、こうしたさまざまな人の手仕事の積み重ねによるものなのでしょう。

「先日いただいた夏季休暇の間に、ちょうどオイル塗りをしたばかりなんです。自分が好きなものだから手入れもするし、手入れしてあげるとまた愛着が湧いて長く使いたいって思えるんですよね。お客様にも、一緒に自然の経年変化を楽しんでもらえたら」

 

目指すのは、心を満たす“家で食べる最高のお菓子”

窓際にも個室のような一角が

そうして店のスタートと共に新たに時の流れを同じくし始めたものがあれば、今まで長く愛し続けてきたものも。

並べた蔵書は、中山さん自身が好きな漫画や料理本、過去に訪れた旅先の観光本などをそろえました。発売から年数が経っていても、今でも楽しめて、なおかつサクッと読めるもの。そんな隠れたコンセプトがあるのだとか。

「メニューとして提供している『EBONY COFFEE(旧:CLOUD NINE)』さんのコーヒー豆や、『升半茶店』さんの日本茶も、実はわたしがずっと自宅で飲んできたものなんです。わたし、大の紅茶党なんですけどね。EBONY COFFEEさんとはもう10年以上のお付き合いになります」

看板メニューのスコーンも、店を始める以前から長年作り続けているもの。外はカリッと、中はフワッとの理想の美味しさを叶えるために、星の数ほどあるレシピを片っ端から試してたどり着いた、中山さんの愛情がこれでもかと詰まったお菓子です。

「それでも時々、レシピを見直したり微調整したりすることもあるんですよ。少しでも美味しくなると、もっともっと好きになるから」

紅茶は奥深い旨みがあるという「MITSUTEA」から。ミルクとも相性のよい「サバラガムワ CTC」800円 が一番人気。淹れ方にも中山さんの譲れないこだわりがたくさん

「不器用だから、自信が持てるものしか出せない」と繰り返し口にする中山さんですが、不思議とその言葉は、“それも自分らしさ”だと、前向きに捉えているようにも聞こえてきます。そしてその分、ひとつひとつのものには並々ならぬ愛情が注がれていることも、強く伝わってくるのです。

「ハセロジのメニューは、自分が家で食べる最高のお菓子とお茶」と、中山さん。新進気鋭のパティシエが作る華やかなガトーや超一級の紅茶のような、気合いを入れて食べる美味しさとは違った、とびきり美味しくて、でも心からホッと癒やされるものでありたいと話してくれました。

 

心を通わせるお客様の、ひとときの喫茶時間を支える力があればいい

「ここには、わたしがこの先も愛し続けたいと思うものしかありません。ですので、好みが異なれば相容れない方もいらっしゃるでしょう。でもそれでもいいと思っています。共感してくださる方が心からリラックスして帰路についてくだされば十分。わたしはそれを支えるのが役割ですから」

モノも情報も、あらゆるものが一時的なものとして次々と消費されていく現代の中で、皆さんには何かひとつでも大切にし続けたいと思えるものがありますか?

時間と共に少しずつ味わいを増し、深く色づいていくハセロジ。きっと中山さんと心を通わせるお客様にとっては、この場所こそが「長く愛し続けたい」と思えるものとなっていくことでしょう。

 

◆HASEROJI
住所:神奈川県鎌倉市長谷2-5-5
TEL:0467-61-0233
営業時間:11:00〜17:00
定休日:月〜水曜
HP:https://www.instagram.com/haseroji
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取材・写真・文 RIN

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