横浜、石川町駅を出るとすぐに目に飛び込んでくる「純喫茶モデル」の看板。レトロな文字に誘われて階段を上がると、赤レンガ倉庫を思わせるノスタルジックな空間が広がっています。純喫茶モデルは昭和~平成~令和と歴史を重ね、いまなお三姉弟が店に立つ、横浜屈指の老舗喫茶店。ホール担当のみどりさんにお話をうかがいました。
インテリアは斬新、接客はアットホームな西洋喫茶
「純喫茶モデル」は、喫茶店が急速に増えた昭和40年代に創業。いわゆる昭和の老舗喫茶店ですが、暗めの照明、落ち着いた雰囲気といった王道のそれとは異なる印象を受けます。
レースのカーテン越しに柔らかな日差しが入り込むたくさんの窓、色鮮やかな黄色のソファ、ひまわり柄のテーブル。「どうぞこちらへ」──ふっと気分が明るくなる華やかさと活気が「純喫茶モデル」にはあります。
純喫茶モデルがこの場所に開業したのは1974年4月。店名は、創業者の白井雪江さんが洋裁を習っていた時、発表会でモデルをつとめ、その響きに魅かれたことに由来します。
もともとは横浜市内の別の場所で10年ほど喫茶店を営業していたそう。親戚がビルを建てることになり、現在の場所へ移転してきました。モダンなインテリアは当時のまま。正真正銘の昭和レトロな空間です。
印象的なのは、横浜レンガを積んだパーテーション。隣席とのほどよい距離感を生み、ゆったりとした時間を過ごせます。ステンレスの天井、とんがり帽子のようなシェードは、当時としては斬新なインテリアで、港町、横浜の歴史を感じさせる西洋喫茶です。
大ママと呼ばれていた雪江さんが亡くなった後は、その想いを長女の洋子さん、次女のみどりさん、長男のたくさんが継承。洋子さんはホール担当、みどりさんはホールと調理の両方を、たくさんは調理を担当しています。
「母は毎日お昼ごろにお店に来て、片隅に座っていて。おしゃべりが大好きでね。私がそれを受け継いでるの。昔は人を雇っていたこともあるけど、今は姉弟だけで。“家族経営”が長年続いた秘訣かしら」と、みどりさん。白井家のリビングのようなアットホームな接客も、モデルの雰囲気をつくりだしています。
昭和から変わらぬスタイルが令和では新鮮
近年は若いお客さんが増えてうれしい、とみどりさんはいいます。「ねぇねぇ、どこから来たの」と気さくに話しかけ、おしゃべりに花を咲かせるのだとか。
「ほら、おしゃべりすると楽しいでしょ? お客さんが楽しい時間を過ごせて、私も楽しく過ごせて。ウチは気取ってないお店だからさ。世間話をするのが大好きなの。静かに過ごしたい方には、ちょっとにぎやかかもしれないけど(笑)」
みどりさんとの他愛無いおしゃべりも、モデルを訪れる楽しみのひとつです。
もうひとつの楽しみは、昭和から変わらぬメニュー。モデルの人気メニュー「ナポリタンスパゲッティー」には、実はお約束のハムやソーセージが入っていません。具材は、フレッシュトマト、ナス、パプリカといった野菜のみ。あっさりしているのかと思いきや、野菜の旨味たっぷりでコクがあります。「隠し味として秘密の香辛料を使っているんですよ」と、調理担当のたくさんはにっこり。
「若い女性がひとりで来てね、クリームソーダやパフェの写真を撮って。昔から変わらないスタイルなんだけどね。それがかえって新鮮なのかしら」と、みどりさんは笑います。
洒落たデザインのコースターと店を彩る絵画
純喫茶モデルの「顔」ともいえるのが、洒落たデザインのコースター。開業当時から使っているものですが、誰がデザインしたのかわからないそう。「今になってよく聞かれるんだけど。母に聞いておけばよかった!」と、みどりさんは残念がります。ちなみに、コースターは持ち帰りもOK。
お店の看板や店内にある絵画は、誰が描いたのでしょうか……?
「あれはね、たくさんが描いたものなの。たくさんは画家で、この上の階にアトリエがあって。お店に飾ってある絵もみんな、たくさんが描いたの。ステキでしょ?」
見渡すと、たしかに絵画があちこちに。たくさんが描いた絵画はふんわりとした優しいタッチが印象的。それはまるでタマゴサンドのよう。たくさんの人柄が、絵画にも料理にも表れています。
階段を上がれば、ひまわりのような笑顔と優しい料理、温もりあふれる空間に包まれて。どんより曇っていた心も、タマゴサンドをほおばりコーヒーをすすればパッと晴れることでしょう。
◆純喫茶モデル
住所:神奈川県横浜市中区吉浜町1-7
営業時間:10:30~15:00ごろ
定休日:水曜
CafeSnap みんなの投稿>> https://cafesnap.me/c/9301