札幌市が誕生してから100年。全国的にも歴史が浅い北海道には、老舗と呼ばれる喫茶店はそう多くはありません。そんな札幌にあって、半世紀以上にわたり市民に愛されてきたお店が「純喫茶 オリンピア」です。7代目のオーナーに引き継がれ、さらに魅力を深めた同店でお話をうかがいました。

 

重厚な造りに心奪われる札幌の老舗喫茶

古いビルの地下へと進み、扉を開けると広がるのはサロンのような空間。

天井が高く重厚な造り、煌くシャンデリア、随所に配置されたオリンピアンのレリーフ……。質屋だったという創業者の経済力や、高度成長期の豊かさを映した贅沢な店内は、美術館を訪れたときのような静かな高揚感を覚えます。

お店を象徴するオリンピアンのレリーフはすべて異なるデザイン

一枚一枚手で折りたたまれた紙ナプキンの端正な美しさや、呼び鈴のベルが鳴るたびに響くスタッフたちの清々しい声。

「コーヒーショップチェーンがたくさんできたけれど、私たちが馴染みのあるのはやっぱり純喫茶。だからその空気感はずっと残していきたいと思っています」と話すのはオーナーの菊地たみ子さん。この店の7代目オーナーで、現役で活躍するインテリアコーディネーターでもあります。

間接照明が主体の穏やかな灯りに癒される

「純喫茶 オリンピア(以降オリンピア)」は、「赤れんが庁舎」の愛称で親しまれる北海道庁旧本庁舎の目と鼻の先にあり、創業は東京オリンピックが開催された1964年。喫茶店としては珍しく代々のオーナーには血縁やゆかりがなく、それ故に、お店の詳しい歴史を知る人は少ないといいます。

懐かしいピンクの公衆電話は今もなお現役

 

店を引き継いだ直後にコロナ禍へ。インテリアを仕事にしていたからこそできた新たな提案

最近では後継者が見つからずに、やむなく閉店してしまうケースが後をたちません。それはオリンピアも例外ではなく、80歳を過ぎた前オーナーも引継ぎ手を探すのに苦労したといいます。1年半もの月日が流れたころ、白羽の矢が立ったのが菊地さん。

「以前、円山エリアで営んでいたインテリアショップでは小さなティースペースを設けていて、紅茶やお菓子の提供をしていました。職業柄もありますが、私が凝り性なのもあって、器や茶葉にもしっかり本格的なものにこだわって。それを覚えていたこのビルと繋がりのある方が、“菊地さんの顔がふっと浮かんだ”と声をかけてくれたんです。

本格的な喫茶経営の経験はありませんでしたが、ちょうどその頃、年齢的にもインテリアの仕事を少しずつ縮小していきたいなと考えていたので、タイミングもよかったんですね」と振り返ります。

オーナーの菊地たみ子さん。常に現場主義で仕事をしてきた実力派

お店を引き継ぎ本格的に再スタートを切ったのは2020年。それまでも近所で働く男性たちでランチタイムは混み合うものの、午後はお客様が途切れてしまうことが常態化していました。さらに追い討ちをかけたのがコロナ禍での働き方の多様化。お昼に外食を控える人が増え、在宅勤務の増加で近隣のオフィスに出勤する人が減っていきました。

当時はSNSでの発信も、諸々のツール活用もしていなかったこのお店。「まだまだ伸び代があるなと確信しました」と菊地さん。オフィス街の人が少なくなったのであれば、それ以外の人に訴えかければいい。そんなポジティブな発想の転換で、お店の改革はすすめられていきます。

ゆったりと落ち着いた雰囲気は老舗ならでは

もともと個人宅から商業的な内装まで、女性向けのインテリアコーディネートを得意としてきた菊地さん。初めて打ち合わせのために訪れた店内を見た時、「もっと美しさが欲しい、この家具をもっとこうしたら……」と次々と思い浮かび、女性たちの心に刺さるお店づくりを思い付きます。

目指したのは仕事でもプライベートでも、一人でも誰かとでも心地よく過ごせる空間。ドレープが美しいファブリックやカーテン、和洋折衷のアンティーク、喫茶店が好きな人たちがつい手に取りたくなる雑貨なども取り入れ、何時間でもゆったり過ごせるようにと手を加えていきます。

 

現代に寄り添う、ビジュアルと美味しさにこだわった喫茶メニュー

さらに“開かずの間”になっていたお店の天井裏から、埃をかぶり眠っていたレトロなパフェグラスやプレートを発見し「これを使わない手はない」と。今ではお店の一軍で活躍しています。

新たなスタートを切った同店の象徴的なメニューの一つ、「ソーダフロート」は徹底的に菊地さんの美意識を詰めこんだ一杯。色彩のグラデーションが際立ち、よりクリアな味わいを求めて、氷は専門店から仕入れたカチ割り氷を使用しています。中でも裏メニューの「アメジスト」はシックなパープルが大人っぽいニュアンス。

「ソーダフロート」各750円。中央のバイオレットカラーがおしゃれな「アメジスト」は裏メニュー
菊地さんが手作りする、しっかり苦味を効かせたプリンも評判。世代を問わず胸がときめく

もちろん以前と変わらず、ナポリタンをはじめとした、ボリュームたっぷりでお手頃な食事メニューも揃います。洋食のシェフによる料理は、いつの頃からか受け継がれてきたレシピを踏襲しつつ、より食べやすいように現代的にアレンジ。

オリジナルブレンドも試飲を重ね、程よい苦味と飲みやすさを併せた豆へと変更しました。またこまめにネルドリップすることで、混み合うランチタイムのセットドリンクにも美味しいコーヒーを提供しています。

ミートソースとポテサラサンド、デザートなどを盛り合わせた「オリンピアプレート(ドリンク付き)」1,000円。

「レトロブームがやってきて、SNS世代の若い子たちがたくさんお店にやってきてくれるようになりました。ですが、常に危機感は抱いています。何度でも足を運んでもらえるように工夫し、よりよいものを提供し続ける、そんな当たり前のことを何より大切にしていかなければならないと思っています」。

 

ゲストとの会話から知るお店の歴史

「お店の歴史についてはお客様の方が詳しいの」と微笑む菊地さん。あるとき、お店の紹介記事を新聞で見つけて来店されたご婦人に「亡くなった主人が、昔つけていた日記を見つけたんです」と、懐かしそうに声をかけられたそう。

「そこには“1964年2月14日、『純喫茶オリンピア』が開店した”と記されていたんですって。オープン年は知っていたけれど、日にちまでは色々調べてもわからなくて。昔から通われている常連さんとの何気ない会話から、今もいろいろと教えてもらうことも多いの。だからお客様と過ごす時間はとっても大切にしています」。

上品で気さくな菊地さん。固定概念にとらわれず、柔軟な発想でお店を改革

そんな仕事一筋の菊地さんの息抜きの方法をうかがうと、自然に触れ合うのが一番とのこと。「写真が趣味で、自然や野生動物をライフワークとして撮り続けています。いつでもそこにあって、また来年も同じ場所に花が咲く。そんな当たり前のなかに身を置くことが、一番の私の癒し」と笑います。

オリーブや円盤を模したロゴも素敵

客観的な視点を持つ菊地さんにより、再び終日にぎわう人気店に返り咲いた同店。しっかり食事がしたい時も、大切な誰かとおしゃべりしたい時も、いつでもそこにあるオリンピアが、札幌市民にとって“心癒す自然”と限りなく近い存在なのかもしれません。

菊地さんの祖父が使っていたという蓄音機も飾られている

 

◆純喫茶 オリンピア
住所:北海道札幌市中央区北4条西6丁目1-3 北4条ビルB1
営業時間:10:00〜18:00
定休日:土・日曜、祝日(月1回土曜営業あり、詳細はSNSにて)
HP : https://www.olympia-coffee.jp
Instagram : https://www.instagram.com/olympia_coffee

文:小澤和歌子    写真:吉川麻子

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