「敷居が高い」と言われがちな日本茶を気軽に楽しめるスタンドとして2018年4月末にオープンしたSatén japanese tea (サテン ジャパニーズ ティー)。日本茶とコーヒーをそれぞれ追求してきた職人たちが作る“ここにしかない”日本茶スタンドです。
おおらかで謙虚な姿勢の中に見える、日本茶を広めていきたいという“情熱”。伝統を守りながら新しい風を吹き込もうとする“姿勢”。 “淹れ手”としてのこだわりと責任感をエネルギーに、新たなスタートをきったふたりに、CafeSnapの大井がお話を伺いました。
◆お話を伺ったのは……
・小山和裕さん(左)
表参道の日本茶専門店、茶茶の間で修行した後、独立。前職では日本茶をメインにしながらコーヒーも提供する新スタイルの日本茶スタンド“UNISTAND”の店主を務める。響さん曰く、「ソフトだけどしっかり芯のある人。意外と頑固……(笑)」。
・藤岡響さん(右)
日本のコーヒー文化の成長とともに、バリスタとしてのキャリアを構築。前職のブルーボトルコーヒーでは、一号店のオープン以来バリスタトレーナーを務め続けた。小山さん曰く「視野が広くて懐が深い人。マニアックなこだわり屋」。
ふらっと立ち寄りたくなる、愛しき日本茶スタンド
大井:Saténのオープンおめでとうございます。まずはお店のコンセプトから教えていただけますか?
小山さん:Saténは気軽に立ち寄れてお茶が楽しめる日本茶スタンドです。日本茶“カフェ”や、日本茶“専門店”と聞くと敷居が高く感じますが、ここはテイクアウトもOK。気軽に立ち寄っていただける日本茶スタンドです。
大井:日本茶を“気軽に”というのは、お店で使われている食器からも伝わってきました。お茶をコーヒーカップで出すというのは新しいですね。
響さん:日常の中で“気軽に飲める”ことをイメージするとコーヒーカップかなと。抹茶もデミタスカップで提供しています。コーヒーカップを選んだのは「日本の喫茶店文化に敬意を表したい」という気持ちもあります。
大井:日本茶がメインということですが、どのようなメニューがありますか?
小山さん:抹茶や煎茶、抹茶ラテやほうじ茶ラテ、アレンジドリンク、それからコーヒーやフードもお出ししています。日本茶はすべて単一農家さんのシングルオリジンを使っていて全部で約11種類。他のお店ではブレンドを使うことが多い抹茶、ほうじ茶も、うちではシングルオリジンで作っています。
大井:先日抹茶ラテをいただきましたが、濃厚でお茶の味をしっかりと感じられました。Saténがシングルオリジンにこだわるのはなぜでしょうか?
小山さん:お茶を通して農家さんのことを伝えていきたいからです。店のコンセプトやロゴで表現している“Leaf to Relief – 茶葉から一服へ –”にもその想いを込めています。
響さん:コーヒーでいうところの“Seed to Cup”ですよね。ただ日本茶がコーヒーと違うのは、農家さんが国内にあって、行こうと思えば行けるということです。提供している品質の高いお茶がどんな環境でどのように育てられているのかをお伝えしていけたらと思っています。
大井:私たちが美味しいお茶をいただけるのは、丁寧にお茶を作っている農家さんがあってのことですよね。
コーヒーにはあって、日本茶にはないもの
大井:コーヒーと日本茶でなにか“違うこと”はありますか?
小山さん:日本茶がコーヒーと圧倒的に違うのは、“飲むことの敷居が高くなってしまっている”ことです。コーヒーの場合、身近に缶コーヒーがあって、チェーン店があって、個人店やコーヒー専門店があって、大坊珈琲店のように歴史や伝統を作ってきたレジェンドのような方もいる。
コーヒー好きの方がもっと知りたいと思った時、順を追って追求していけるピラミッドあります。そのピラミッドのどこで止まるのかや、心地いい場所は人それぞれ選ぶことができる。選択肢があることでコーヒー豆や焙煎の違いに気づくことができます。コーヒーにはそういった広がりがありますよね。
小山さん:日本茶の場合、身近にあるのはティーパックやペットボトルで、外で飲む場合は定食屋さんで出されるお茶ぐらい。その次はもう日本茶専門店にいかなければお茶を飲むことはできません。
一般の方が専門店でいきなり1000円のお茶を飲めるか、というとそれは難しい。日本茶の世界では、ペットボトルのお茶を飲んでいる人が次のステップで行き着く先がない状況です。だからSaténは、その間をつなぐクッションになりたいと思っています。他のお茶屋さんではしないと思いますが、うちでお茶を飲んで、さらに「他の専門店にも行ってみたい」と思ったら喜んで紹介しますよ。
響さん:この状況は、ひと昔前のコーヒーに似ているんですよね。缶コーヒーがあって、コモディティコーヒー(大量消費型のコーヒー)があって、ようやくここ数年でスペシャリティコーヒーという言葉が聞かれるようになってきました。
日本においてお茶を飲むことは100年以上も前に家庭に広まっているから、お茶のイメージはすでに染み付いてしまっています。それをもう一度一新するために、Saténでは農家さんが作るお茶のことを伝えたいですし、そのために、コーヒーが辿ってきたことをヒントにできればと思っています。
伝統を守る責任と新たな価値の提案
小山さん:日本茶の敷居を下げるために変えられるところは変える。ただ伝統を理解している僕らが何でもアリにしてしまうのではなく、守るべきこともあると考えています。その判断をする責任があります。その中で、新しい方向性を見出していけたらと……まさに「守破離(しゅはり)」ですね。
※守破離 とは……剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。 (デジタル大辞林より引用)
日本茶の固定概念を一新するアレンジドリンク
大井:カウンターの席に座ると、自分が注文したお茶がどんな風に作られるのかを目の前で見ることができて、すごく楽しいですね。ただ飲むだけでなくて、一緒にお茶の世界を体験できるので興味が持てます。
Saténはメニューも斬新です。シンプルに抹茶や煎茶もありますが、アレンジドリンクは特に驚きました。
小山さん:アレンジドリンクは、抹茶トニックや煎茶トニック、抹茶ビールなどたくさんあります。響さんはコーヒーだけじゃなくて液体全般の知識が豊富なので、アイデアもどんどんでてきて、新しいドリンクを作りすぎないように僕が止めているんですよ(笑)
響さん:(笑) 例えば、煎茶トニックで使っているトニックウォーターは何種類も試して、今はバーで出すようなものを使っています。良いお茶に良い素材を組み合わせたら必ず良いものなるのであとはバランス。「どんな素材を、どんな風に使ったらお茶を活かしたドリンクが作れるのか」をいつも考えています。
大井:お茶やコーヒー、その他のドリンクについても積み上げてきた知識があるからこそ、斬新で美味しいドリンクを生み出すことができるのですね。
小山さん:Saténでは日本茶を通して様々なことを知るきっかけになれればとも思っているんです。例えば「コーラひとつとっても様々な味のコーラがあるんだ」とか「お茶をいれる道具はこういうものを使うんだ」とか。アレンジドリンクはその気づきを提案するひとつです。色々なものを見て欲しいですし、気づいてほしい。そこに繋げられたらなと思っています。
Vol.2の「コーヒーから学ぶこと、日本茶から気づくこと」は7月25日(水)更新予定。お楽しみに!
Satén japanese tea (サテン ジャパニーズ ティー)
住所:東京都杉並区松庵3-25-9
営業時間:10:00〜21:00
定休日:月曜
メニュー:緑茶(ブレンド) 420円〜、抹茶ラテ 520〜円、砂炒りほうじ茶ラテ 420円〜、煎茶トニック 700円、ジブラルタル 450円、あんバターサンド450円 etc.
HP: https://saten.jp/
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Interview&Writing:Ayako Oi
Photo:Kumiko Nakakuki