2023年5月3日、4日、神保町にてコーヒーフェスティバル「COFFEE COLLECTION」が開催されます。今年は精製方法別にNatural、Washed、Innovationの3部門を設け、エントリーしたロースターが自家焙煎豆を提出。国内外で活躍するジャッジのカッピングによって選ばれた上位店舗が「COFFEE COLLECTION」に出店します。

この記事では、Innovation部門の審査会後にジャッジをインタビュー。出店チケットを獲得した1位、2位と10位以内で印象的だったコーヒー、そして、Innovation部門に属するコーヒーの魅力や未来について、ジャッジをとつめた三神亮さん(Roast Design Coffee)、鈴木康夫さん(TRUNK COFFEE)、鈴木清和さん(GLITCH COFFEE&ROASTERS)お聞きました。

◆Innovation部門 TOP10

 

― Innovation部門の審査、お疲れ様でした。まずは、30店舗のコーヒーをカッピングして全体的な印象や傾向、感想を教えてください。

三神亮さん(以後:三):みんなそれぞれにすごく違いましたね。

鈴木清和さん(以後:清):上位に入ったのはシナモン系など典型的なものが多くて、もうちょっとコンプレックスなコーヒーがあってほしかったですね。

鈴木康夫さん(以後:康):Innovation部門というわりには、案外Innovationじゃないなと。海外にはもっとおもしろいコーヒーが色々あるので、日本はそういったグリーン(生豆)をまだ引っ張ってこれていないのかな、っていう気がしました。

―では、Innovation部門 1位のHatchの「Colombia El Paraiso Geisha “sake”」についてお聞きします。どんなところが評価ポイントだったでしょうか。

康 :おもしろい。僕は1番高い点を付けました。もうシンプルに綺麗で、ちゃんとまとまっていて、インパクトもしっかりありました。

清 :Innovationロットらしいというか、めっちゃコンプレックスだった。Innovationロットのための焙煎ができていますね。

三 :一番、ぱっと輝いていましたね。「これだけ違う」みたいな感じ。ワインでいうなら、ゲベルツトラミネール※みたいで、パッションフルーツの感じもすごくあったし、ピカピカでした。
※フランス、アルザス地方で栽培されている白ワイン用品種

康 :もうドライの時から違いましたね。Innovation系のコーヒーって、色々で出てきているじゃないですか。その中で、消費者にいい意味で、インパクトを与えられるコーヒー。このカテゴリーにぴったりなだなと思いました。

三 :ベースがすごくクリーンカップ。フレーバーのバランスもコーヒーとしてまとまりがあって、変に逸脱してないところもよかったですね。

― 2位のRED POISON COFFEE ROASTERSの「Colombia Quindio Armenia Del Eden」についてはいかがでしたか。

清 :これも変わってましたね。バジルやストローベリーみたいな味があってコンプレックス。おもしろかったです。

康 :これもクリーンで、僕はライチティのような感じ。

三 :パッションフルーツとかね。酸のストラクチャーがかかっていた(液体に骨格がある、しっかりしている)感じがしましたね。

― 10位以内のコーヒーでほかに印象的だったもの、好きだったものがあれば教えてください。

清 :PHILOCOFFEAの「003 Ethiopia Wate Tetsu Process “Tomodachi”」はすごくよかったです。豆がいい。ワインみたいにフレーバーが強くて強度(厚み)もありますね。

三 :ignisの「Ethiopia Gesha Village Champion Reserve #1 Honey」はおもしろかったです。烏龍茶やダージリンのような味わいがあって、エチオピアっぽくない。すごく美味しいけど、エチオピアっぽくないし、もうなんだかわかんない、っていうところがおもしろいなって(笑)。

清 :冷めてきたらめっちゃよかったですよね。ゲイシャみたいな味もあった。

三 :ちょっと好き嫌いが出る味だとは思うんですけどね。オレンジ、紅茶のニュアンス、酸もあるし、バランスがよかったですね。

康 :僕はKIELO COFFEEの「Colombia Cauca Popayan Santuario Black Lime Honey」。まさにジンジャーですね。シンプルにおもしろさとインパクトがあったっていうのとバランス。アフターはシトラスとジンジャーが長く続いて、新しいコーヒーの価値を表現している、今までにないおもしろさがありました。それからちゃんとクリーンで、まとまっていたところもよかったです。

今回の審査会をブラインドでやって、改めて思ったんですけど、「価格の高い豆=美味しい」ではないですよね。世の中的に、ブランディングされた豆の価格は上がっているじゃないですか。それももちろんいいですけど……それ以外にもおもしろい豆はあるし、なにより焙煎で良くも悪くも変わりますね。

― あらためて、Innovation部門のコーヒーの魅力とはなんでしょう。

清 :Natural、Washedが伝統的な精製方法だとすると、Innovation部門に入ってくるAnaerobic Fermentation(アナエロビック・ファーメンテーション)やInfused coffee(インフィーズドコーヒー)は先進的な精製方法で作られていますよね。

康 :ちょっと話がそれちゃいますけど、今回、審査会を精製方法別にカテゴライズしたのはすごくよかったなと思ったんですね。WashedとInfusedのものが並ぶと、優越はつけられないなと思うんで。

三 :ワインでいうなら、純粋な品種特性を楽しむ“ステンレスタンク醸造のシャルドネ”と、新樽の香りや乳酸の香りを溶け込ませて滑らかに仕上げた“マロラクティック発酵のシャルドネ”は比較できないし、比較する意味がないもんね。

康 :Innovationカテゴリに入る豆、例えばInfusedなら、それが「Infused coffeeだ」って消費者にちゃんと伝えていく必要があって、情報の透明性は必須だなと。そうじゃないとこの種のコーヒーの存在が邪魔もの扱いされてしまうと思うんですよね。

― それはなぜでしょう?

康 :InfusedのコーヒーはNaturalやWashedと比べたらインパクトがあるじゃないですか。一般の消費者の方って、インパクトに影響されることが結構あると思うんですね。だから全ての精製方法のコーヒーを一括りにしてしまうと、ただインパクトのあるものが良しとされて、綺麗なNaturalやWashedの価値が陰ってくるなと。

三 :つまりそれはInfusedのように、“そういった試みができる”、“お金がある農園”しか評価されなくなってしまう可能性があるということです。さらに、小規模でいいテロワールを持っていても、インパクトのあるコーヒーが単に評価されてしまうと、テロワールを重視している農園が敵わなくなってしまう。本当にいいテロワールのものが発掘・評価されなくなってしまうというわけです。

― 今後、このInnovation系のコーヒーはどうなっていくと思いますか。

康 :最近、アジアを周って感じるのは、分かりやすいコーヒーは消費者にうける(評価される)傾向があります。東南アジアやアジア諸国など、コーヒーやスペシャルティコーヒーの歴史が短い国は、Innovation系のコーヒーはすごく受け入れられているし、わかりやすいコーヒーの方が消費者に伝わる、そして広まっている印象があります。

逆に日本はコーヒーの歴史が長いから、ロースターさんにもよりますが、日本では「受け入れない」という人もいて温度差を感じています。

僕は精製方法のカテゴライズをしっかりとして、情報を伝えて、消費者も教育をしたうえで楽しんでもらえたらいいなと。Naturalだろうが、Washedだろうが、Infusedだろが、やっぱりいいものはいい。だから、Innovation系のコーヒーの中でも「いいものはいい」って、ちゃんと紹介していくべきだと思っています。

三 :僕は元々ワインが好きでね。ワインと比べるとコーヒーが進化してきたのは、この20年ぐらいですよね。そもそも様式や文化が定着するのに100年、200年はかかるんじゃないかなって、個人的には思っているんです。だから、コーヒーもいろんな製法がでてきて、確立されて、その国ならではのものが根付いて、それに対応した法整備ができる……とかね。

そういう意味でInnovation部門のコーヒーは、今すでに変なのやおもしろい(ユニーク)のがいっぱいありますけど、どんどんやったらいいと思うんです。それが最終的に落ち着いたとき、文化になるんじゃないかなって。

康 :コーヒーだけの話じゃなく、社会もどんどんどんどん変わって、変化・進化しているじゃないですか。昭和の時代は黒電話だったのに、今はみんながスマホを持っている。コーヒーもそれぐらいの勢いで変わってきていると思うんです。

トライアンドエラーを重ねて、どんどん変わって成長していく。だから変な話、僕は5年後、コーヒーがどうなっているか……正直、見えないですね。

それから、精製処理を行うのは農園ですけど、消費国にいる自分達がそれにどう向き合っていくのかも大事だなって思っています。もっとニュートラルで受け入れて、判断していくべきなんじゃないのかなと。

清 :なんか、毛嫌いしちゃダメだと思うんですよ。自分達が受け入れなくなると、農園の人たちは研究することができなくなっちゃいますよね。

康 :そうなんですよね。自分たちは焙煎を研究して、抽出も研究しているじゃないですか。それと一緒で農園の方も努力されているわけだから、 やっぱりまずは受け入れる、そのうえで判断するべきかなと。

結局、エンドユーザー(消費者)は美味しくなければ買わないし、それがフィードバックになるわけですから、毛嫌いはしちゃダメだっていうのは、僕も常に思っていることです。

― Innovation部門のジャッジのみなさん、ありがとうございました!
Natural部門、Washed部門の審査会後インタビューも、近日公開します。

 

世界最先端のコーヒーを味わえる「COFFEE COLLECTION 2023」開催!

喫茶文化が根付く神田錦町で2015年から開催している「COFFEE COLLECTION」が約4年ぶりに戻ってきます。2023年5月3日、4日に開催される「COFFEE COLLECTION 2023」の最大の特徴は、90店のロースターから選ばれた店が集結する“シングルオリジンコーヒー”のみのフェスティバルということ。高品質な豆の選定、焙煎、抽出など、カップ一杯のコーヒーになるまでのすべて過程において、“こだわりと情熱”をもって作られた世界トップクラスのコーヒーを味わうことができます。

また豪華登壇者を招いたコーヒーの知識を深めるセミナーや、コーヒーとともに楽しみたいスイーツもラインアップ。ぜひ世界最先端のコーヒーをお楽しみください。

◆日時
2023年5月3日(水)11:00〜18:00、 4日(木) 11:00〜17:00

◆会場
第一会場:KANDA SQUARE(東京都千代田区神田錦町2丁目2−1)
第二会場:竹橋スクエア(東京都千代田区神田錦町2-3)

◆HP
http://coffeecollection.tokyo

Photo: Shintaro Yoshimatsu
Interview & Editing : Ayako Oi(CafeSnap)

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