東京都大田区西馬込。繁華街とは一線を画す昔ながらの暮らしが根付くこの街に可能性を感じ、店を構えた「yohak」。5周年を目前に今、オーナーの稲葉秀樹さんが「西馬込にしてよかった」と繰り返し言葉にする真意とは。

 

主人公は喫茶店好きのグランマ。小さな架空の物語から始まったyohak

都営浅草線の終着駅、西馬込。駅のすぐ裏側から落ち着いた住宅地が広がるこの街に、「yohak(ヨハク)」ができてまもなく5年が経とうとしています。2016年のオープン当初は小さな葉をまばらにつけていただけの軒先のぶどうのツルには今ではたくさんの葉が茂り、すっかり立派なひさしに育ちました。

そんな緑の屋根の下の小さな扉を開くと、先に待っているのはヨーロッパの食堂のようなシンプルながらもやさしい空間。開放的な高い天井まで伸びたシックなモルタルの壁に、温もりあるアンティークのスツールやレトロなブルータイルのコントラストが印象的です。

オーナーの稲葉秀樹(いなば ひでき)さんは、9年前に惜しまれつつも閉店した「CICOUTE CAFE(チクテカフェ)」の出身。ほかにも、イベント事業や国産家具の修理などに携わってきた経験から、自分が培ってきたものをカフェという場を通じて自由に表現したかったと話します。

たとえば、日本のものの心地よさもそのひとつ。今回のインタビューでまず稲葉さんが教えてくれたのは、yohakにまつわる小さな架空の物語でした。

「主人公は、日本の喫茶店に憧れるイギリス人のおばあちゃんです。カフェを開きたいと日本にやって来たおばあちゃんが、喫茶店文化を吸収してイギリスで開いたお店が『yohak』、というのが僕の中のストーリー。

彼女はイギリスやヨーロッパの雰囲気を残しつつ、料理やインテリアに日本のものを積極的に取り入れるんですけど、喫茶店や日本の文化を“ちょっと間違った独自の解釈”をしてしまっていて(笑)、だからyohakのいたるところにはユーモラスな視点で切り取られた和の要素が散りばめられているんです」

現実のyohakはすべて、稲葉さんや一緒に店に立つ奥様がこのおばあちゃんのフィルターを通して表現したものなのだそう。実際に店にある家具やアイテムは意外にもほとんどが日本製。

「yohak」という名前も、そんなグランマが焦がれる日本の美として、デザインや芸術にあえて間をつくることを美しいとする“余白の美”から取りました。

yohakのアイコン的な存在でもあるカップもメイドインジャパン。棚は稲葉さんの祖父の家にあったもの

「自分でやるなら、ほっこりでもスタイリッシュでもない、遊び心があってユーモアが表現できるカフェにしたかったんですよね。おばあちゃんが“間違った解釈をしている”という設定は、実はそのための逃げ道でもあるんです(笑)」

稲葉さんは冗談ぽく笑って見せますが、その逃げ道こそ、まさに彼自身がつくり出したひとつの“余白”。自由に表現できる幅を持つことで、yohakはさまざまな可能性を秘めて歩み始めました。

 

何もないところに新たなものを生み出す楽しさが、西馬込にはあった

西馬込は稲葉さんの生まれ故郷であり、生まれてこの方ずっと暮らしてきた街なのだそう。昔ながらの個人商店がいくつかあるだけの暮らしが根付く街で、これまで外から訪れる人はほとんどありませんでした。

そんな西馬込に店を開いた理由にもまた、彼なりの価値観が。「単純に地元に貢献したかっただけでなくて、どちらかというと都心に一切魅力を感じなかったんです。確かにお客さんはたくさん来てくれるかもしれないけど、常に店を回すことやいろんなものに追われてしまって、それ以上の楽しみがなくなってしまう気がして」。

過ごすこと、出会うこと、伝えること、つながること……。飲食の場という価値に限らずyohakで自分が届けたいものを考えると、自ずと西馬込という答えに行き着いたという稲葉さん。

何もない街だからこそ、自分たちのペースと自分たちの力で、時には街の人と協力しながら本気で取り組めば、新たなものを生み出せる可能性がたくさんあるから、と覚悟を決めたのです。

 

妥協はしない。スタッフや街の人と一緒に、ここにしかないものをつくる

商売という観点だけで考えると、その選択は困難な道のはず。自然と人が流れてくる場所でない以上、ここまで来たいと思わせる魅力を生み出さなければならないのですから。だからこそ、「少しでも手を抜いたら来てもらえないという思いは常にある」と稲葉さんは自らを律します。

空間も料理もお客さまとの接し方も、ほかでは出会えない自分たちらしいものを、スタッフと一緒になって一生懸命考え続けているのだと話してくれました。

オープン当初からの人気メニューであり、yohakのシグネチャーディッシュでもある「塩サバと季節野菜のサラダ」はまさにその象徴といえるでしょう。

アナザーストーリーの主人公・イギリスのおばあちゃんの“独自の日本の解釈”が存分に現れている一品でもあります。焼いた塩サバをたっぷりの季節野菜に豪快にのせ自家製ドレッシングで仕上げたユーモアあふれるサラダは、見た目の華やかさと確かなおいしさで多くの人の心を掴んできました。

セットは選べるサンドイッチ付き。喫茶店でお馴染みの「ハムときゅうりのサンドイッチ」もここではカンパーニュで

ただいい店をつくりたい。その一心で一歩一歩、着実に歩みを進めてきたyohak。「いいものをつくれば、どこにあろうと必ず伝わると信じていましたから」。

 

西馬込じゃなければ、今のyohakはない。これからもこの街と共に歩みを進める

そんな確信は、かつてのチクテカフェ時代に得たもの。落ち着きあるシンプルな空間と手の込んだ料理で多くの人を魅了し、11年もの間愛され続けた名店は、稲葉さんにとっても「ずっと働いていたいくらい好きだった」と語るほど大切な思い出の場所です。いつかチクテを超えたいという愛に満ちた野望は、店を始めたころからずっと心に秘めているのだといいます。

一部のスツールやカトラリーはチクテカフェにあったもの。「店にいられるだけで幸せだった」と稲葉さん

5周年を目前にまだまだ努力が必要だとしつつも、年々少しずつお客さまが増え、つながりが広く深くなっていくことに、自分たちがやってきたことが認められているようで素直に嬉しいと語る稲葉さん。コロナ禍になってからは、多くの地元のお客さまに支えられていたことを身をもって知り、街の人の声に応えたいという想いもより強くなりました。

「もちろん、この街に来るきっかけなればという気持ちもあった。それに、何もない場所にサラッといい店があったら、かっこいいじゃないですか(笑)」

西馬込にしてよかった——。これはこの日、稲葉さんが何度も口にした言葉です。

「この街だからこそ、自分たちのペースでyohakらしさを徹底して追求しながら、着実にステップアップしてくることができました。街の皆さんにも、各地から西馬込まで足を運んでくださるお客さまにも感謝ばかりです」

年内には店の一部改装を控え、またこの街と共に一歩前へ歩みを進めるyohak。たくさんあった西馬込の街の“余白”は、こうしてyohakによって少しずつ満たされていくものもあれば、あえてこれからも残されていくものもあるのでしょう。

いいものは伝わる。もしそこに国境がないのだとすれば、想像の物語から始まった東京の下町の1軒のカフェに、イギリスからひとりのグランマが訪れることも夢ではないのかもしれません。

 

 

◆ yohak(ヨハク)
住所:東京都大田区西馬込2-7-2
TEL:03-6316-0145
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・水曜
HP:https://www.instagram.com/yohak_tokyo
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取材・写真・文 RIN

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