GLITCH COFFEEがエチオピアの名だたる農園とタッグを組み取り組んだ、3つのオリジナルロット(その店のために作られたコーヒー豆)が8月から順次発売開始! 手がけたのは、タミルさんが農園主をつとめるALO COFFEEや、世界的に知られるGESHA VILLAGEなどの農園です。

ロースターと農園が手を組んで「その店だけのロット」を作ることは両者にとってどんな意味があるのでしょうか。今回は「GLITCH COFFEE」の鈴木清和さんと、両者を繋いだ「ETHIOPIAN COFFEE HOUSE」のダウィット・ギルマさんに、エチオピアでのオリジナルロット作りを軸に、ロースターと生産者の関係性、その先にある可能性についてお話を伺いました。

<プロフィール>
鈴木清和さん:GLITCH COFFEE代表。浅煎りコーヒーを牽引するスペシャルティコーヒーロースター。神保町、日本橋、名古屋、大阪に店を構え、海外のコーヒーファンからも高く評価されている。

ダウィット・ギルマさん:エチオピア出身。2015年に創業したエチオピア産スペシャルティコーヒー生豆の直輸入・卸売を専門とする会社「ETHIOPIAN COFFEE HOUSE」の代表。

最初の出会いはポールバセット時代

― GLITCH COFFEEとETHIOPIAN COFFEE HOUSEの出会いは約5年前。GLITCHがエチオピアの生豆をETHIOPIAN COFFEE HOUSEから購入し始めたことがきっかけだったそうですね。

鈴木さん:はい、ただ、実はダウィットさんとはもっと前から共通点があって。以前に自分はポールバセット、ダウィットさんはサルヴァトーレ クオモ、同じ時期に同じ会社で働いていたんです。当時は働いているメンバーも多かったのでお互いを知りませんでした。

 

―鈴木さんはこれまで3、4回、エチオピアに行かれたことがあって、今年の1月に初めてダウィットさんたちと一緒に現地を訪問されたと聞きました。

鈴木さん:はい、ダウィットさんはエチオピアで有名な生産者、ALO COFFEE(アロコーヒー)のタミル・タデッセさんをはじめ、エチオピアでトップクラスの農園との繋がりがあるので、「一緒に行かないか」とお声がけいただいて、ご一緒することになりました。

実はGLITCHとして最初のオリジナルロットを作ってくれたのは、タミルさんなのですが、他にもエチオピアでGLITCHのオリジナルロットを作りたいと思っていました。

 

―ダウィットさんはエチオピアの生豆を日本のロースターに販売することがビジネスの中心だと思いますが、エチオピアの農園とロースターを繋ぐこともされているのでしょうか?

ダウィットさん:そうですね。弊社としては、日本のロースターとエチオピアの農園や生産者との接点を作るプラットフォームでありたいと考えています。そのためさまざまなロースターを毎年農園にお連れしています。

―鈴木さんにとってエチオピアのコーヒーはどのようなところが魅力ですか?

鈴木さん:一番最初に感動したコーヒーは“エチオピアのナチュラル”だったと思うんです。「なぜこんなベリーのような味がするんだろう」って。

エチオピアはエスプレッソでもフィルターでも、シングルオリジンでもブレンドでも、どんな方法でもおいしいですね。自分はケニアも好きでエチオピアとケニアは二大巨頭だと思っていますが、ケニアはエスプレッソにすると酸味が強くなったりして良い農園を探すのが難しい。その一方、エチオピアはどんなスタイルでもおいしい。それも魅力です。

 

―逆にエチオピアの農園の方々にとって、日本のロースターはどのように映っていますか?

ダウィットさん:日本のロースターは素晴らしい焙煎技術があり、本当に真面目。そしてパッションを持ってお客様にコーヒーを提供していると感じています。

 

シングルオリジンの世界をもっと面白く

―もともと鈴木さんが「GLITCHのオリジナルロットを作りたい」と思ったのはどうしてでしょうか?

鈴木さん:GLITCHはシングルオリジンしかやっていなくてブレンドがありません。もしブレンドがあったら、きっと店の看板商品になるでしょうけど、うちは絶対にやりません。

オリジナルロットは、この店でしか飲めない味。GLITCHロットはGLITCHしか持っていないので、お店でもフェスでも注目してもらえたり、お客さんにも喜んでいただいているように思います。あと、こういった特別な取り組みがあるほうが、シングルオリジンの世界はもっと面白くなると思うんです。

 

―逆にエチオピアの農園の方々にとって、GLITCHの鈴木さんが産地を訪問し、オリジナルロットを作ることはどのように映っているのでしょうか?

ダウィットさん:エチオピアの生産者たちは海外のトップロースターとの関係を深めたいという気持ちがあります。バイヤーが農園まで来るとすごく感動しますし、豆を買って終わりではなく、人間関係を作っていく、それが大事だと思っています。

GLITCH COFFEEはエチオピアの生産者の間でも有名なロースターで、みんな知っているので、農園に来てくれるだけでもすごく嬉しいんです。そこから関係を深め、フィードバックなどのやり取りを通してコーヒーの生産技術を向上させていきたいという気持ちを持っていると思います。

鈴木さん:僕たちもオリジナルロットやカスタムロットを作れるとなるとワクワクして、モチベーションがすごく上がります。オリジナルロットを持つというのは、ある程度、規模が大きくないとできないですし、信頼できる人の繋がりがないとできません。「1キロだけください」とは言えないですし。交渉内容を含めて、全ての条件がクリアになって初めて実現できることです。

 

「こう作ってほしい」から、「生産者を信頼して任せる」へ

―今回、エチオピアでGLITCHロットを作るにあたって、どのような会話があったのでしょうか?

鈴木さん:こちらから細かく要望を出して作ることはすごく難しくて……。以前、他の国で「こういう精製方法で何時間発酵させて、何時間乾燥させて」と指定して作ったことがありますが、うまくいきませんでした(笑)。

そこから学んだのは、その農園で育てられているコーヒーの品種には適したプロセス(精製方法)があるし、世界中で作られているコーヒーの木は土地を含めて育っている環境が異なるので、他国でうまくいった作り方でお願いしても、おいしくできるわけではありません。例えるなら、日本のある酒蔵のお酒と同じ製法を別の酒蔵で再現しても、同じ味にはならないのに似ています。

だから、ALO COFFEEのタミルさんのようにいろいろな作り方を研究されていて、データを持っている方の感性を信頼し、いまはプロセスを委ねています。タミルさんは来日するとGLITCHにも来てくれるので店のことをよくわかっていて「GLITCHだったらこういう豆が良いと思うよ」と毎回、いくつか提案をしてくれるんです。

ダウィットさん:ちなみにタミルさんはすごく味の取れる方(味覚に優れた方)で、Qグレーダーコースを一緒に受けた時は、何年も経験のあるコーヒー関係者の中でクラスのトップのスコアを叩き出していました。香りも味も、コーヒーのことをきちんと理解しています。

鈴木さん:実はタミルさんに対して自分たちも最初は「アナエロビックのベリー系で」と具体的に指定して作ってもらったのですが、その後、海外のフェスで会った時に「今度はハニーですごいのを作るから!」と、すごくワクワクして提案してくれたんですよ。それに対して「いや、別のものにして」とは言えないので(笑)。「楽しみに待ってるね」と伝えて、提案してもらった3つのサンプルの中から1つを選ぶ形をとっています。彼らが自分たちのことを考えてベストなものを作ってくれることはわかっているので、いつも間違いがないです。

それから毎年一定量の豆を長く買い続けることもサステナビリティの観点で大事だと思っています。その際に、毎年同じ豆だと変わり映えがしないし、他店との差別化もできないので、よい農園のコーヒー豆はオリジナルロットを含めて一定量を買い続けたいと思っています。

 

産地では「規格外」とされたコーヒー豆の価値を変えた、日本の焙煎技術

ダウィットさん:タミルさんは今でこそ世界的に知られる生産者ですが、私がタミルさんと知り合ったのは、2021年に開催されたエチオピアのCup of Excellenceで、ALO COFFEEのコーヒー豆が1位を獲得したことがきっかけでした。

当時、彼らは「アンダースクリーン」という、サイズの小さいコーヒー豆に悩んでいました。なぜなら、小さい豆は規格外とされ、Cup of Excellenceにも出品できないし、なかなか売れない状況だったからです。

―コーヒーの世界では一般的に「スクリーンサイズは大きい方がよい」とされていますよね?

鈴木さん:はい。昔の日本では、ハワイコナを筆頭にスクリーンサイズが大きい方が値段も高かったです。コーヒーキャリアの長い人の中には、アンダースクリーンの豆を見ただけで「これは駄目だね」と言う人もいます。それから小さい豆はファーストクラック(1ハゼ)のパチッという音が聞こえないので、感覚で焙煎しなければいけなくて、それも難しい。火が入りすぎちゃうんです。

ダウィットさん:ただ、そのサンプルを私がもらって、GLITCHさんに焙煎してもらったところ、素晴らしくおいしく焙煎してくださって! そこから「アンダースクリーン」への注目度や扱われ方が大きく変わりました。

鈴木さん:今は「味」でしか判断しないから。小さくても、規格外のものでもおいしいものがある。その可能性を探っていけることがコーヒーの良いところだと思っています。

―エチオピアの中では評価されていなかったアンダースクリーンの豆を、ロースターの技術でおいしく焙煎し、結果的にその価値を変えたということですよね。

ダウィットさん:はい。かつては「アンダースクリーンの豆を輸出する場合は、バイヤーが欲しいと言っている」ということを証明する資料を出さないと輸出できないほどの扱いだったのですが、今ではそれも変わりました。そして今やアンダースクリーンの豆は、日本から韓国、中国、世界へと広まって、世界中で奪い合いになっています。

鈴木さん:最初は量も購入できたのですが、いまは世界中で人気になってしまって、もう買えないんですよ……。アンダースクリーンのこと、隠しておけば良かったですね……(笑)。

ダウィットさん:この件を通して、生産者とロースター、立場の違うプロフェッショナルが繋がることでコーヒー豆の新たな可能性を見つけることができたと思っています。そして、その豆の価値を変えることができました。同じような可能性が、エチオピアの豆にはまだまだあると私は思っています。

 

3つの農園、それぞれのやり方で作るオリジナルロット

―ちなみに、今回の訪問では、ALO COFFEEのタミルさん以外にもオリジナルロットを作られたそうですね。

鈴木さん:はい、GESHA VILLAGE(ゲシャビレッジ)とKARAMO COFFEE(カラモコーヒー)にも今回初めてオリジナルロットをお願いすることができました。GESHA VILLAGEに受けてもらうのはさすがに難しいと思っていたので、お願いできることになったときにはびっくりしました。

ダウィットさん:GESHA VILLAGEは、私たちも毎年オークションなどでさまざまなロースターに紹介していて強い繋がりがありました。GESHA VILLAGEでオリジナルロットを作った事例は過去にないとのことだったのですが、鈴木さんをお連れしたらとても前向きに考えてくれました。

―GESHA VILLAGEにはどのようなリクエストをしたのでしょうか?

鈴木さん:GESHA VILLAGE独自のプライベートオークション「Pride of Gesha 2022」で1位になったロットがとても好みだったので、「それに近しいコーヒーを作ってほしい」と伝えました。

エチオピアの生産者たちが素晴らしいのは「あのときどんな精製処理をしたのか」、「去年のあのロットがどんな味わいだったのか」、過去のデータをしっかり管理していることです。なので、こちらの要望に対する再現性が高い。サンプルは3つ届いて、その中に自分たちが求めていた豆を見つけることができました。

―KARAMO COFFEEはいかがでしたか?

鈴木さん:KARAMO COFFEEは、どちらかというと農園主が「これが良い! この精製方法が絶対おすすめ!」と、自信を持って提案してくれるタイプで(笑)。今後は、こちらからもフィードバックを伝えながら話し合いを重ね、より良いコーヒーを一緒につくっていけたらと思っています。

―農園主さんによって、オリジナルロットの作り方、進め方に違いがあるんですね。

 

豆を買って終わり、ではない。オリジナルロットが作る関係性

―今回はオリジナルロットを作るための訪問だったと思いますが、ダウィットさんは、オリジナルロットを作ることにどんな意味があると思いますか。

ダウィットさん: オリジナルロットを作ることは、ロースターと生産者の関係をより深めることにつながると思います。たとえば、GESHA VILLAGEを訪れた際も、生産者の方々がロースターに対してとてもリスペクトがあり、「こうしたコラボレーションはとても大切だ」と話していました。

コーヒー豆を買って終わりではなく、ロースターからのフィードバックをもとに話し合いを重ねながら、次のコーヒーをどう作っていくかを一緒に考えていく。そうした継続的な関係を築くことで、品質を少しずつ改善しながら、お互いに成長していけるのだと思います。

 

―人としてもビジネスとしても、お互いによい相乗効果があるのは素晴らしいことですね。今回の取り組みで実現したGLITCHオリジナルロットはもう飲めるのでしょうか?

鈴木さん:GESHA VILLAGEはすでに提供していて、KARAMO COFFEEは9月に発売。ALO COFFEEは10月頃の予定です。3つ揃ったらセットも作りたいですね。

―これからの豆の発売も楽しみです! 今日はありがとうございました!

<撮影協力>
・GLITCH TOKYO
住所:東京都中央区日本橋本町1丁目1−3 立石本町ビル1F
営業時間:9:00〜18:00
https://www.instagram.com/glitch_coffee_tokyo

・ETHIOPIAN COFFEE HOUSE
住所:東京都江東区高橋7−13 1F
https://www.instagram.com/ethiopiancoffeehouse

 

Photo:Junmaru Sayama
Interview & Writing:Ayako Oi(CafeSnap)

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