2023年のWBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)アテネ大会で優勝したブラジル代表のBoram Um(ボラン・ウム)さんと彼を支えたチームの仲間が来日! SCAJの最終日にCOUZOU Inc.で開催された日本初のセミナーの様子をレポートします。なぜBoramさんはWBCで優勝を勝ちとることができたのか。セミナーでは自身のビジョンと優勝までの道のり、そしてチームやトレーニングについて語りました。

Boram Um(ボラン・ウム)さん。2023年ワールド・バリスタ・チャンピオン。世界大会の出場は今回が3回目。ブラジルでは家業でコーヒー農園、そしてサンパウロ市内に6店のカフェを経営している

―「Teamwork makes the dream work(チームワークが夢を実現させる)という一節を知っていますか?」― これはWBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)アテネ大会で優勝したBoram Um(ボラン・ウム)さんが行ったプレゼンテーションの第一声です。 今回のセミナーもチーム(仲間)とチームワークについてからトークが始まりました。

 

夢を実現させた“仲間”と“チームワーク”

Boramさん:WBCへの道を語るうえで最も重要だったのはチームです。まずは仲間を紹介します。

まずメインのコーチ、David Crosby(デヴィッド・クロスビー)さんです。2010年からカナダでコーチをしていて国内大会を5度経験、世界大会にもコーチとして4回携わっています。非常に経験豊富な方です。

2人目はCole Torode(コール・トロ-ド)さん。13年間バリスタとしてカナダ大会に出場し、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップのファイナリストを2度経験、そして1度カナダの国内大会でブリュワーズチャンピオンになっています。

そして最後にMarcia Yoko(マルシア・ヨウコ)さんです。彼女は2012年からブラジルでコーチをしていて2度ブラジルの国内大会でチャンピオンを輩出しています。「ブラジルから世界チャンピオンを」という夢はマルシアさんがいたからこそ始まりました。チームにとって重要な存在です。

左から:Boramさん、Marciaさん、Coleさん、Davidさん

そして次に重要だったのはドリーム、夢です。私たちが大会を通して発見したことのなかで特に重要だと感じたのは “どのような目的と目標で大会に挑むのか”です。

競技者たちはさまざまな理由で大会に挑みます。店のブランディングや会社のPRのために出場する選手もいますし、事実、大会に出ることでビジネスが生まれることもあります。もしくは、多くの競技者が「チャンピオンというタイトルが欲しい」「認められたい」という気持ちで出場していると思います。

しかし、そのような目的や目標は、WBCにおいてはあっさりと消えてしまいます。特に大会に出場することでビジネスを成長させたい、という目標はすぐに消えます。なぜなら、大会に出場するために多くの金銭的な投資が必要だからです。

単なるエゴや「タイトル(入賞実績)が欲しい」という気持ちもすぐに消えてしまうでしょう。なぜなら大会に挑むということは、日々の生活において多くのことを“犠牲にしなければいけない”からです。

 

なぜあなたは勝ちたいのか?

競技者は「もし自分が優勝したら、プロとしてコーヒーのコミュニティにどのように貢献できるか」をより考える必要があると私は思っています。

私の目的と目標は明確で、「ブラジルのコーヒーマーケットを向上させ、ブラジルのコーヒーの質を上げて、それを伝えていくこと」です。

WBCはコーヒーそのものや、技術、アイデアを披露できる最高の場所で、競技者は15分間のプレゼンテーションを行います。その15分間はコーヒーコミュニティの全体が自分を見ている、注目しているということを把握しておかなければなりません。 だからこそ大会に出場する確固たる目標・目的が必要です。それがなければおそらく、自分が求めている結果を出すことはできないと私は思っています。

つまり、大会に挑むにあたって私たちが考える大事な要素は、まず自分自身の目標と目的を持つこと。そして次に、それをどのように成し遂げるのかです。

大会においてはリソース(資源)が必要で、つまり “投資”が求められます。ただ投資といっても“お金”だけではありません。もっと大きいのは“時間”。時間という犠牲を払います。バリスタは手を動かしながら喋る必要があり競技は複雑です。なので、練習につぎ込む時間が多ければ多いほど、よりアドバンテージ(優位性)は高いでしょう。

また、会場で見られる競技は15分ですが、バックステージに入った瞬間から最後のクリーンアップまで、 全てが競技の一部です。そう把握した上で、自分自身のことだけでなく、周りのことに配慮し、ベストな状態を作って大会に挑むことになります。だからこそ、どのような仲間とその環境を作るのか、 そしてどうしたら競技者が最高のレベルに達することができるのかを考えることが重要でした。


 

大会はコーヒーの知識と技術を高め、自分自身を成長させる

大会に向けての準備で、プレゼンテーション作りやコーヒー選びが済んだら、次にやってくるのがマインドゲーム(心のコントロール)です。

ご存じの方もいるかと思いますが、バリスタ・チャンピオンシップはまず国内大会があり、世界大会でも予選、準決勝、決勝があります。大会は短距離走ではなく長距離マラソンなのです。

国内大会ではテクニカルな面において採点の比重が高いと思いますが、WBCでは各ラウンドで重視される評価点が異なります。

私たちが考えるには、WBSの予選は国内大会と同じようにテクニカルスキルが注視されていると思いますが、準決勝では「誰が最も高度な技術を持っていて、美味しいコーヒーを提供できるのか」を評価していると考えています。

そして決勝では「誰がこのコーヒー業界を代表する人として最も相応しいのか」を審査員は見ています。

くわえて、今年から変わったルールではプレゼンテーションスキルの比重が大きくなったと私は感じました。

競技者は“15分間でベストが尽す”ことが求められ、それを叶えるためには多くの人の支えが必要です。誰がコーヒー豆を焙煎し、備品を準備し、誰がメンタルをケアするのか、それから食事の用意も。冗談で「私の周りにはたくさんのベビーシッターがいるね」と、言っていたほどです(笑)

メンタルに注目するのは、競技で良い結果を残すために重要だからです。最後まで一緒に戦ったこのチームのコアメンバーは私にストレスを与えることなく、環境を整えてくれました。だから私は最後まで競技することができました。

 

身体とマインドの準備ができた時、チャンピオンへの道が開く

Marciaさん:私がコーチとして大会が始まる前にすべての選手に伝えているのは「みんなチャンピオンになる可能性を持っている。でも、誰もチャンピオンになる準備はできていない。」ということです。

競技会に出て優勝するためには、身体とマインド(心)の両方をトレーニングする必要があり、その準備ができたらチャンピオンになれる、もしくはベストな状態の自分になれると私は思っています。つまり、競技とは学びの場であって、それは自分自身のベストを探し求める場でもあります。

私は日本の文化を知っているので分かるのですが、日本人は周りのことに気を遣いすぎて謙虚になりがちですよね。でも本当にトップになりたいなら、自分自身をさらけ出すことが求められます。

以前、トレーナーの阪本さんと話したことがあって、かつてのBoramはすごくシャイで、いつもこちらの提案に「イエス、イエス」と言っていました。しかし、アテネの世界大会の前には「これは必要ない」「この人とは一緒にやりたくない」と、自分の本心を言えるようになったんです。それを見て私は「準備ができたんだ」とわかりました。

Boramさん大会が素晴らしいのは、勝つこと、コーヒーのスキルを高めること以外にも一人の人間として成長できることです。トレーニングを始めると、自分が得意なことはすぐに習得できる一方で、自分は何が苦手で何ができないのがすぐにわかります。そしてその全てがステージで現れるんです。見せたくなくても出てしまいます。


 

信頼するチームとともに、マインドゲームを乗り越える

「チャンピオンになれるかなれないか」という点で、メンタルは非常に大きな要素だったと思います。大会が終わってほかの競技者と話をしてみると、多くの人はメンタルに影響を与えることを抱えていました。例えば、チームメンバーの1人のエゴが強いとか、そういった些細なことが影響を及ぼし「自分はチャンピオンになれないかも」と思ってしまうのです。

私自身もマインドゲーム(心のコントロール)は簡単ではなかったです。私は多くのことに「ノー」と言えるようにならなければいけませんでした。

Davidさん:聞いていいですか。マインドゲーム(心のコントロール)はどのようにトレーニングすればいいんですか。

Boramさん:さまざまなやり方があると思うので、自分にとって1番合うもので良いと思います。人によっては瞑想する人もいれば、1日2日完全に休暇を取る人もいます。 私は身体を動かすようにしています。運動は瞑想に近いものがあり、体力的にも強化されるからです。健康であることは、やはりマインドにも直結します。

それから、他者とのマインドゲーム(心理戦)でいえば、今年のアテネで、私たちは「決勝に行くだろう」とほかのチームからも注目されていたこともあって、会場では常に周りに人が集まってきて、「ディナーに行こう、飲みに行こう」と誘いを受けました。でも私たちはほぼすべての招待を断りました。

それから、チームの仲間をお互い信頼し合っていたので、決勝大会の途中で誰一人、チームの中に新しい人を入れることを許しませんでした。決勝の前には1時間の準備時間がありますが、キャリブレーションでいえば私たちの間では取れていたので15分で終わりました。外部の人を入れず、他人の判断要素を遮断したんです。結果的に私の心を乱すものがなかったので、決勝でもブレずにいられました。

Davidさん:素晴らしい答えです。

Coleさん:マインドゲーム(心のコントロール)に関してでいうと、負けることを受け入れること、その準備をしておくことも必要だと思います。勝つ人は1人しかいないのです。

それから頂上に行くためには、暗い谷を通らなきゃいけないことが多くあります。 私は世界チャンピオンになったことはありません。 逆に、最下位になったことはあります。数回、失格になったこともあります。それでも毎年戻ってきて、毎年胸を張って10年間、競技に出続けました。

マインドゲームにおいては、勝つことだけにフォーカスするのではなく、目標、目的を探して、何のためにやっているのかを考える。それを見つけたら、負けることも受け入れる。そうすると、自分自身の成長につながると思います。


 

良いマインドと自信を高めるためのトレーニング

Boramさん:いつも良い状態のマインドであるであるために心がけたのは、「自分は何が得意で、何が得意じゃないのかを理解すること」でした。私自身、もともと自信がある方ではないんです。だからこそ自信をつけるためにトレーニングを何度も行いました。

Marciaさん:Boramは岩瀬さん(REC COFFEE)を目指していたのよね? 岩瀬さんがこの方法でエスプレッソ抽出を100回以上やったと聞けば、同じようにそれやっていました。

Boramさん:最後にトレーニングのルーティンについてです。私たちはスポーツのアスリートと同じ感覚で大会に臨んでいました。アスリートは大会がある時だけトレーングをしているわけではありませんよね。 大会がない時もオフシーズンも、毎日トレーニングを続けています。私たちのルーティングもそうでした。

エスプレッソ抽出やミルクスチームの練習など「テクニカルバリスタトレーニング」は週6日。週2でF1レーサーなどが取り入れている「ハイパフォーマンストレーニング」を行って視野を広げたり、マルチタスクをこなすトレーニングを行いました。

またバスケットボールやサッカー選手などさまざまなアスリートが起用している脳神経科学のコーチをつけて、フィジカル(身体)とメンタル(心)をトレーニングしました。そうすることで集中力が高まり、自分にストレス(負荷)がかかる大会でも対応ができるようになりました。

さらに、TED TALKなどで登壇者のスピーキングコーチをしている方の指導を受けたり、週2日はコーヒーの新しい知識、イノベーションなどについて、リサーチをしたり議論を交わしました。それが私の4年間の毎日のスケジュールです。

これらは自分自身の仕事時間が終わった後やランチタイムにも行っていました。だから、私がここまでの間に費やしてきたことの中で“最も大きな犠牲”はなんだったかと聞かれると、間違いなく“時間”です。

そして、競技シーズンに入ったらトレーニングスケジュールは変わります。それぞれのシーズンでまず目標を設定します。最低でも2か月前までにはコーヒーが決まり、焙煎レベルが決まります。次にスピーチ作りとプレゼンテーション。 そしてそれを可能な限りトレーニングする。

最低でも1日10時間、月曜から月曜までノンストップでトレーニングをしていました。でも実は、私にとってトレーニングは“楽しいこと”で“大変なこと”ではなかったんです。だから今、何が1番も寂しいかと聞かれると……、あのトレーニングの時間がなくなってしまったことなんです。

Coleさん:そうそう、WBCが終わってそれぞれ自国に帰り、1週間後ぐらいにみんなで電話をしたんです。その時に気付いたのは「私たちの旅は終わってしまったんだ」ということでした。その時の私たちは、世界一という最終目的地に辿り着いたことを受け入れる心の準備がまだできていなかったので、寂しくなってしまいました。「戻りたい」という気持ちが大きかったですね。

Marciaさん:そう、だからこうやってみんなで集まってワールドツアーをしているのよね、続けたいって(笑)

2週間の日本滞在を通して、SCAJやさまざまなコーヒーセミナーで日本のバリスタやロースター、コーヒーラバーに会ったというBoramさんとチームのみなさん。Boramさん曰く「日本のコーヒーコミュニティには情熱、知識、創造性があります。コーヒーは“飲み物”以上のものであって、世界中の志をある人々を繋げてくれる、と改めて感じました」とのこと。Boramさんとドリームチームのワールドツアーはこれからもアジア、ヨーロッパで続いていきます。

 

イベント企画・主催・記事校正:Yoshiharu Sakamoto (COUZOU.inc)
取材・文:Ayako Oi(CafeSnap)

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