府中にあるのどかな住宅地の一角に、2019年2月にオープンしたcafe bond。洗練された空間で、手間を惜しまず丁寧に作り込まれたランチやスイーツ、アルコールやカフェメニューなどが楽しめるお店です。店主のkumi(中津久美子)さんは元看護師で、同店を作るスタッフの仲間はほとんど本業と両立しながらカフェにたずさわっています。今回は、kumiさんに空間や料理へのこだわり、なぜカフェを開いたのかなどについて伺いました。
海外リゾート地をイメージしたナチュラルな空間
cafe bond(カフェボンド)があるのは、のどかな街並みが広がる東京都府中市の南端。西武多摩川線の最終駅、是政から徒歩3分の場所にあります。駅周辺は住宅地で、飲食店は数えるほど。お店を開いた際には、地元の人たちから「友達と気軽に会える場所ができた」ととても喜ばれたそう。
カフェを経営しているのは、建築業やシェアハウスなどを営む中津さん夫妻で、カフェの運営は主に妻のkumiさんが行っています。広い一軒家をリノベーションした店内は、まるで海外のリゾート地にあるレストランのような、上質で開放的な雰囲気。元家具職人のご主人が企画にたずさわっているというインドネシア製の家具をゆったりと並べ、グリーンやアンティーク雑貨を随所に配した、とても心地のよい空間です。
“非日常感”を堪能できるランチプレートやスイーツ
カフェのコンセプトは、“非日常感”。空間はもちろん、料理やスイーツ、うつわにまで趣向を凝らしています。例えば、ランチプレートに盛られた料理はサラダの上のチーズに至るまでほぼすべて手作り。おうちごはんとは異なる、味つけやメニューをあえて取り入れています。
ランチタイムには、季節によって変わる2種類のランチ「本日のPLATE」(AorB・1,100円)や、ボリュームのある「欲張りプレート」の他、数種類の日替わりメニューをラインアップ。この日チョイスしたBセットには、豚肉と茸のソテー レモンクリームソース、チリコンカン、彩り野菜のピクルス、サツマイモのキッシュ、サラダ、パンが彩りよく盛りつけられていました。ランチプレートはいろいろな種類の味わいを一度に楽しめることが魅力。これをお目当てに訪れる女性客も多いのだとか。
すべてのランチにドリンクがセットになっていますが、コーヒーや紅茶だけでなく、なんとワインもチョイス可能。“平日の昼下がりにワインを一杯”なんて、まさに非日常感が味わえそうです。
スイーツは旬のフルーツを取り入れたロールケーキや、シフォンサンド、タルト、焼き菓子など、常時5~6種類ほどを用意。同店の専属パティシエがレシピを開発しており、味わいもビジュアルも本格的。
うつわは、手仕事の温かみが伝わる作家ものや、丹波焼や信楽焼などを使用し、こちらも“非日常感”を演出。この日のメニューに登場していた「ラフランスのムース」(450円)は、繊細なデザインが施された陶器作家 望月万里さんのうつわの上で、印象的な美しさを放っていました。
女性ならではの視点で、仲間の能力や個性を活かす
今の日本社会は、妊娠出産を機に仕事を辞めざるを得ない女性がたくさんいます。kumiさん自身も、現在保育園児から中学生までの4人の子育てをしていて、そういった光景を数多く目の当たりにしてきたのだとか。「女性はすごい力を持ってるのに、子供を産むと力を発揮できる場が格段に減ってしまう。女性の能力や個性を活かせる場を創りたい」、そう思った時に、行きついたのがカフェでした。
現在cafe bondでは、子育てのためパティシエ職から離れていたママや、看護師として働きながら料理や写真のサポートをしているスタッフ、将来カフェ開業を考えている人などが働いており、kumiさん自身も週一で訪問介護の仕事を続けているとのこと。それぞれが働きやすい環境を模索しながら、女性ならではの視点を大切にしてカフェを運営しています。
看護師の仕事と、カフェ運営との共通点
現在は、育児と仕事をパワフルに両立しているkumiさんですが、看護師として病院勤めしていた20代の頃は、患者にできることの限界や、組織で働くことの難しさに直面したこともあったそう。そんなときふと思い立ち、3か月間、バックパックの旅へ。宿泊していた海外のユースホステルでは多くの人と出会い、触れ合い、助け合うことで心が満たされることを実感したそう。それからは看護師として施せる医療行為以上に、患者の心に寄り添うことを大切に、相手がいつも何を求めているのかを考えながら向き合うことで、患者の心をほぐせたと感じられる機会も増えたとのこと。
旅や看護師の仕事を通じてたどり着いた“人と人を繋ぎ、相手の心に寄り添いたい”という思いは、現在のカフェ運営にも生かされています。常連のお客さんに対しては親しみをこめて話しかけたり、アンケートなどを通じてメニューなどへの要望を聞くことも。「『ありがとう、また来るね』という声が、私のエネルギーの源泉なんです」と、笑って話すkumiさん。今後はライブやスイーツ教室などのイベントなども不定期で開催し、様々な形で人と人をつなげていきたいと考えています。
カフェの未来像を決めすぎず、幸せにできる人を増やしていきたい
オープンから9ヶ月ほど経った現在のお店について、「今はまだ畑を耕して、種を植えたくらいだと思っています。これから芽吹いて、実っていくのかな」、とkumiさん。カフェ開業に際しては準備することも多岐にわたり、本当に開業できるのか不安になることも多々あったそうですが、周りの人に助けられ無事オープンすることができたのだとか。そこで改めて周りの人とのつながりに感謝したそうです。
「一人の人間ができることは限られているけれど、人をつなげていくことで、徐々に大きなコミュニティへと発展させていきたい。未来に関してはあえて決めすぎず、その時目の前にいる人の想いに目を向けながら、幸せにできる人を増やしていくのが理想です」。
秋も深まり、涼やかな風が心地よく感じる季節。ゆっくりおしゃべりしたいお友達を誘って、心温まる“非日常”カフェへ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
◆cafe bond(カフェボンド)
住所 : 東京都府中市是政5-2-8
電話番号:042-306-7164
営業時間:9:30~17:00(L.o. 16:30)
定休日:水、日曜、祝日
アクセス:西武多摩川線「是政」駅より徒歩3分
HP :https://www.instagram.com/bond.koremasa528/
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Interview&Writing : Kumiko Nakakuki