その自家焙煎珈琲店には、決まったブレンドがありません。一人ひとりの注文に応じて店主がブレンドの構成をその場で考え、希望のイメージに近い一杯を淹れてくれるのです。慣れてくると「スターウォーズみたいな珈琲」などという無茶な注文をするお客さまも! 若い店主はなぜこんな難しいことに挑戦しているのでしょうか?

 

大坊珈琲店、Coffee Tramを経て

東京・青山にあった自家焙煎珈琲の名店「大坊珈琲店」のスタッフとして活躍していた古屋達也さん。大坊珈琲店が惜しまれつつ閉店した後、恵比寿のバーを間借りして「Coffee Tram(コーヒー トラム)」を営業して好評を博し、2018年9月、下北沢に自身のお店「珈琲屋うず」をオープンさせました。

今日はどんな珈琲にしましょう。そう訊かれたお客さまは「マイルドで優しい珈琲」「苦味は強くなく、濃厚な珈琲」など、それぞれの好みを店主に伝えます。カウンターの背後に用意されているのは4、5種類のストレートコーヒー。注文を聞いて、ストレートがいいと思ったらストレートのまま、ブレンドがいいと思ったらストレートを自由自在に組み合わせ、配合の比率を考えて抽出します。

「手廻しのロースターで深く焙煎して、ネルで抽出するというやりかたは決まっています。私はこれしかできないし、これを使うのが好きですから。その枠組みの中でお客さまの好みにお応えします」と古屋さん。

――なぜこんなスタイルにしたのですか?

「第一に、トラムを出て新しくやるんだったら今まで通りではつまらない、と思ったんです。今まではずっと自分の中だけで珈琲を作ってきた。自分にとっておいしい珈琲はなんだろうと考えて、これだと思ったものを出す。まあそれが普通のかたちですよね? じつは最近、珈琲を大量には飲めない体質に変わってしまった。それでも、味見する分には別にいいじゃないか、と思っていて」

――お酒を飲めないバーテンダーもいますね。

「はい。トラムを閉めてここを開くまでの3週間近くのあいだ、珈琲を飲みたいというよりは、焙煎したいなとか、珈琲作って出したいという欲のほうが強かったんです。だから、自分のためにはもう作らなくてもいいかな、と吹っ切れた部分がありました」

 

お客さまの世界をプラスして、領域をひろげる

「これからは、訪れたお客さまの世界を少し分けていただいて珈琲を作ってみようと。今までは『自分の味はこれだ!』という<点>で勝負してきたんですが、その<点>に自分とは全く違う世界をくっつけることによって領域をひろげる作業。そう思ったら、あ、こっちのほうが自分に合ってる、自分はけっこうふんわりした人間なんだな、ということがわかったんです(笑)」

――トラム時代の緊張感とは別の世界?

「このやりかたもリスキーではあります。お客さまに『注文したイメージと違う』と言われたらトラブルになっちゃいますから。でも、たとえ1杯目はお客さんの注文に100%近づけなくても、次はもっと近づける、という関係性を持つようにしてみたらどうだろうか。つまり、お客さまと珈琲屋の二人三脚で、あなたの言う珈琲は今の私じゃできないけど、ずっと続けて来てくれて、そのつど珈琲の感想を言ってくれるんだったら、いつか絶対に見つけてあげる、というふうにもっていけるんじゃないかなと思ったんです。これが表向きの理由です」

――表向きじゃない理由もあるのですか?

「楽しんでやりたいなと思ったんですよ。自分の中で考え込んでいるとむっつりしてしまって、お客さまも気づまりな感じもあったでしょうし。でも従来の珈琲屋さんってそういうのをよしとする部分もあって、お客さまも緊張しながら珈琲を待って、そのドキドキ感を楽しんでいる。自分もトラムを始めた当初は絶対に話をしないぞと思っていたんですが、結局、ガラじゃないなと(笑)くだらないことをちょっと話して笑っていたほうが性に合ってる。トラムでは全然話さなかった人も、ここでメニューの説明をしながら会話していると、こういうのが好きだったんだとか、こういう人だったんだとか、わかったりします」

――「スターウォーズみたいな珈琲をください」という無茶ぶりにはどう対応したんでしょう。

「その人は1杯目はオーソドックスな注文だったんですが、隣の人が変な注文をしたのを聞いて、2杯目に『僕はスターウォーズが大好きなので、スターウォーズみたいな珈琲をください』(笑)」

――隣のお客さまが珍しい注文をすると、真似したくなりますよね(笑)

「それで、『わかりました。ただ、私は最近のエピソードは見てないので、昔のスターウォーズでいいですか?』と開き直って、『大作だから、ある豆を全部使いましょう。これは味とかではなく構成で作りましょう』と提案しました。『ブラジルは深く焼いてますから、これを舞台となる宇宙に見立てて、配役を決めましょう。この豆はR2D2、これはC3PO。ダースベイダーになっちゃった、というのは淹れ方で表現します』と。たしかC3POがドミニカだったかな。意外なことに、一杯の珈琲としてわりときれいにまとまりました(笑)』

Coffee Tramを訪れた少なからぬ人が、幻となった大坊珈琲店の味を求めていたに違いありません。古屋さんはその期待に見事に応え、お客さまを満足させながらも、常に自分ならではの味を探究していました。

2017年にもう一人の大坊珈琲店出身のスタッフが「慶珈琲」をオープンさせ、大坊珈琲店の味と端正なスタイルを継承したことで「ほっとした」と古屋さんは言います。肩の荷をおろしたようにラクになったことに気がついたと。その安心感も、珈琲屋うずが自由なスタイルに挑戦する一因となったのでしょう。

さて、この日私が注文したのは「マイルス・デイヴィスの『ROUND MIDNIGHT』のソロのような珈琲」でした。スターウォーズとどちらが無茶でしょうか。

そんな注文をしたのは、数年前に古屋さんから「マイルスのソロを聞いていると、『どうだ!俺はこんなに素晴らしいことができるんだ! ここまでのことができるように生きてきたんだ! おまえらなんかまだまだだ!』と言っているように感じることがあります。普通の人ならそんな自己主張は興冷めですが、マイルスだと納得します。威圧的で挑発的。そういえば、大坊さんがレコードでROUND MIDNIGHTをかけて、あのソロを聞いた時に『鳴かせるねえ~』と笑っていました」という話を聞いたのが印象に残っていたから。

登場した珈琲は「真っ暗闇に赤いライトがついているようなイメージ」で、たっぷり「エグめに」使ったドミニカの味がその赤い色を担っている、と古屋さん。その一杯の味と香りは、威圧的で挑発的……というよりはむしろ、力強く、味の輪郭が鮮明で、とてもおいしい。

――味は色でイメージするんですか?

「抽象的なオーダーだと、そういう時も多いですね。抽象をモノに移しかえて、それを想像のイメージのほうに移して珈琲を作って、相手側はそれを飲んで自分のイメージと照らし合わせる。もっと普通に『苦味が強くて、だけどすっきりしていて、ちょっと華やかな感じ』というオーダーだったら、苦味ならブラジルかな、すっきりさせるんだったら、酸味をほとんど焼き切ったグアテマラをちょっと混ぜて、華やかさでエチオピアとドミニカを使おうかな、とか」

というわけで、珈琲屋うずを訪れたら、ぜひ本当に飲みたい一杯を注文してみてくださいね。差し出された一杯の感想を伝えれば、再訪したときにはさらに理想に近い珈琲に出会えるはず。あなたが深淵を覗きこむとき、深淵もまたあなたを覗きこんでいる……という例の言葉は、珈琲にもあてはまります。

珈琲屋うず
住所:東京都世田谷区大原1-3-2
営業時間:13:00~22:00
定休日:水曜
HP:https://coffee-uzu.shopinfo.jp
CafeSnapみんなの投稿:https://cafesnap.me/c/10999

 

Writing by 川口葉子

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