2026年の2月で日本上陸10周年を迎えるダンデライオン・チョコレート。先日の「クリスマスコレクション 2025」の発表会にあわせて来日した創業者のトッド・マソニスさんと、妻でブランディングを担うエレイン・ウェリーさんにインタビューの機会をいただきました! 創業時の話や、日本チームと働くことで感じた“日本のクラフトマンシップ”とは……? ──CafeSnapの大井が伺いました。

大井: 2026年2月で、ダンデライオン・チョコレートは日本上陸10周年を迎えます。いま、どのようなお気持ちですか?

トッドさん: とても嬉しいです。本当にあっという間でしたね。日本で活動できて、とても幸せです。日本のチームと一緒に働けて本当に楽しい10年でした。

大井: ダンデライオン・チョコレートは2010年にサンフランシスコで創業されて、今年で15年になります。トッドさんは現在、会社の中でどんなお仕事をされているのでしょうか?

トッドさん: 年によって全然違いますし、ビジネスの状況によって変わります。創業当時はカカオ豆を焙煎してチョコレートを作っていましたが、その後はカフェを開いたり、オンライン事業を始めたり、人を採用したり、計画を立てたり。毎年やることが違って、同じ日は一日もありません。

大井: 大きく発展したチョコレートショップのCEOとなれば、もはやデスクワークが中心かと想像してしまいました……!

トッドさん: もちろんデスクワークもあります。でも日によって違いますね。新しいチームメンバーを採用すると、彼らにはそれぞれ得意分野があるので、その分、僕はまた別のことに取り組むようになります。だから、毎日がまったく違うんです。

写真提供:ダンデライオン・チョコレート

大井: 改めて「ダンデライオン・チョコレート」という名前の由来を教えてください。ダンデライオンの意味は「タンポポ」ですよね。

エレインさん: そうです。創業当時は“Excellence(エクセレンス)”など、高級感のある名前のチョコレートブランドが多くありました。でも私たちは“クラフト”の部分を大切にしたいと思いました。だから、もっと控えめで、最小限の素材から美しさを生み出す言葉を探しました。タンポポはどこでも咲くし、雑草のように強い生命力がある。そこに謙虚さと“どんな状況でも生き抜く力”を感じて「ダンデライオン」にしました。

トッドさん: それにダンデライオンには、子どもの頃のノスタルジー(懐かしさ)もありますね。

大井: トッドさんは以前、テック系のスタートアップを起業・経営されていたと記事で読みました。チョコレートとはまったく違う業界ですが、なぜチョコレートを始めようと思ったのですか?

トッドさん: 確かにまったく違う業界ですが共通点もあって、どちらも“ゼロから何かをつくる”という点では同じです。

テック業界はとてもスピードが早くて、コードを書けばすぐプロダクトが動きます。一方でチョコレートは、カカオ豆を仕入れ、店舗を作り、実際の製品を作るので、時間がかかるし、より慎重さが求められます。何でも試せばいいわけではなく、一歩一歩、丁寧に進める必要があるんです。でも、それがとても楽しいです。

それに、以前は僕たちのソフトウェアについて、誰も「好き」とは言ってくれなかったけれど、チョコレートはみんなが大好きです(笑)。人を幸せにできて、心からのつながりを感じられる。そんな仕事に携われるのは本当にうれしいことです。

エレインさん: 私たちがテック業界にいたとき、私たちの親は、私たちが何をしていたのか全然理解していなかったと思います(笑)

トッドさん: そうそう。でもチョコレートなら理解してもらえます(笑)。

大井: 人を幸せにすることが、人生やビジネスのビジョンなんですね。

トッドさん: そう思います。会社を始める理由は人それぞれですが、多くの人は単にお金を稼ぐために始めます。でも、僕たちはそうじゃない。チョコレートが大好きだから始めたんです。

チョコレートの世界を良くしたいし、これまで“本物のチョコレート”を食べたことのない人たちに知ってもらいたい。このチョコレートがどこから来ているのかも知らない人たちに、ちゃんと伝えたいと思っています。

だから、僕たちのモチベーションは“世界のためにスペシャルなことをする”というところにあります。もちろんビジネスだからお金も必要ですが、「どうやって一番儲けるか」とか、「誰かを搾取して利益を出す」なんていう考えはありません。

なぜなら、大量生産のチョコレート産業は、農家に適正な対価が支払われず、原料の質も悪い。そして、健康にも良くない。そういう悪いサイクルで成り立っている場合が多いんです。僕たちは、それとは正反対の、本当に良いことをしたいんです。

写真提供:ダンデライオン・チョコレート

大井: ちなみに、テック業界で働いていたときの知見はチョコレート作りに活きていますか?

トッドさん: テック企業を立ち上げるときには、いわゆる“ファースト・プリンシプル(第一原理)”から始めます。つまり、既存の常識にとらわれず、まっさらな目で物事を見直すんです。

でも、チョコレートの世界は100年以上ほとんど変わっていません。やり方が非常に固定化されていて、それはコモディティ(汎用品)としてのチョコレートの作り方、つまり、質のよくないカカオ豆を使い、強く焙煎し、たくさんの添加物を加えるというものでした。

そこで私たちは、スタートアップと同じように“ゼロから考える”アプローチを取りました。「自分たちは何を求めているのか?」というところから出発し、カカオ豆を仕入れて、きび糖というたったひとつの材料だけを加え、どんな味が生まれるのかを探っていきました。

そして、この新しいチョコレートの可能性を人々に理解してもらうために、教育したり、試してもらったりしながら広げていきました。

つまりこれは、ゼロから何かを作り上げるスタートアップのような挑戦です。ただし、扱うものがまったく違う、デジタルではなく、“本物の素材”を使う、まったく別のタイプのプロダクトなんです。

大井: 簡単なことではないですよね。たくさんのチャレンジもあったと思います。

トッドさん: そうですね。本当に毎日新しいチャレンジがあります。「これが課題になるだろう」と思っていても、実際は全然違う問題が起きたりする。機械が壊れたり、カカオ豆にトラブルがあったり、何が起きるか分かりません。だから僕たちは一日ずつ、目の前にあることに集中して、起きた問題を一つひとつ解決してきました。そして昨日より今日を少しでも良くするように努力する。それを10年続けられたので、よくやれていると思います。

大井: チャレンジを楽しんでいるのですね。

トッドさん: うーん、まあ、楽しいとは言えない瞬間もあるんですが(笑)、乗り越えたあとに「解決できた!」という達成感があります。そのとき初めて、「やってよかったな」と思えます。

大井: 昨今はカカオの価格が高騰し、チョコレート業界は厳しい状況ですが、トッドさんはどう見ていますか?

トッドさん: 私たちは比較的、影響を受けていない方だと思います。もともと世界中から最高品質のカカオ豆をダイレクトトレードで仕入れていて、市場価格よりも高い値段で買っています。

私たちの製品はもともとプレミアムラインで、価格も高めなんですが、お客様も「最高の品質を手にしている」と理解してくださっているので、価格高騰による直接的な影響はそれほど大きくありません。

ただし、業界の中で、特に小規模なクラフトチョコレートメーカーにとっては、この状況は本当に厳しいものです。だからこそ私たちは、「クラフトチョコレート業界全体をどうすれば持続的に成功させられるか」を一番に考えています。

というのも、“ビーントゥバーチョコレート”を愛する世界的なムーブメントがあって、そこにはカカオ豆の高騰、関税問題など、さまざまなことが課題になっています。またコロナ禍は、多くの人たちにとっても本当に大変な時期でした。いま、多くの人たちがそこから立ち直ろうとしています。

写真提供:ダンデライオン・チョコレート

大井: ここからは日本との関わり合いについてお聞きします。日本に進出されたのは2016年でした。上陸先としてなぜ日本を選ばれたのですか?

トッドさん: きっかけはセイジさん(堀淵清治)です。サンフランシスコで彼に出会って、「日本でやるべきだ」と言われました。最初は「僕たちのショップは小さすぎるし、まだ早い」と断っていましたが、セイジさんと友人になり、話をするうちに日本のことが大好きになりました。

日本にはクラフト文化があり、品質や“正しく作ること”の大切さを理解している国だと感じています。そして素晴らしいパートナーであるセイジさんに出会えたことで、「よし、やってみよう」と決めました。結果的にとても成功して、本当に嬉しいです。

左から堀淵清治さん、トッド・マソニスさん、エレイン・ウェリーさん

大井: 日本でどんなものに“クラフト感”を感じたのでしょうか?

トッドさん: すべてです。すべてのものにクラフト感を感じました。

エレインさん: 日本のチームと一緒に仕事をするのは本当に楽しいんです。例えば、この店舗がオープンしたときのことをよく覚えています。

オープンの数日前に日本に到着して、飛行機を降りたあと、トッドが「今すぐ店を見に行こう」と言いました。私は「ジェットラグもあるし、明日でもいいんじゃない?」と言ったんですが、トッドは「いや、今行こう。」と(笑)。

それでスーツケースをガラガラと引きながらお店に行って、角を曲がった瞬間、店からはあたたかい光が漏れていて、空間全体が優しく輝いていたんです。

オープンまであと2日という状況で、誰かが手すりを磨いていて、別の人がコーヒーテーブルの高さをほんの数ミリ単位で調整している。その姿を見て、「ああ、このチームが大好きだ!」と思いました。

ここで作られるチョコレートは本当に素晴らしいです。チームは素晴らしい仕事をしているし、ペストリーも素晴らしい。お互いにアイデアを出し合って一緒に作るのが楽しいんです。日本のチームは才能にあふれていて、私たちにとっても刺激的な存在です。

だから、ここでは単にチョコレートを作るだけでなく、人と人とのつながりや、“文化の交差(クロス・ポリネーション)”があるんです。アメリカから日本に持ち込んだアイデアもあれば、日本のチームが開発したものをアメリカに逆輸入したりもしていて、とても素晴らしいパートナーシップが築けていると思っています。

商品で言えば、たとえば「東京ガトー(Tokyo Gâteau)」は、アメリカでは新しい存在です。このタイプの商品はこれまでほとんどなかったので、とても人気があります。それから日本の柑橘類を使ったチョコレートもあります。アメリカでは手に入らない種類の柑橘が多くて、本当に特別なんです。

写真提供:ダンデライオン・チョコレート

大井: 日本のチームと一緒に働いて学んだこと、そして逆におふたりが日本のチームに与えた影響があれば教えてください。

トッドさん: 僕たちはビーントゥバーチョコレートの焙煎や製造手法を日本に持ち込み、ムーブメントづくりに貢献したと思います。それが業界全体に広がっていったのはとても良いことだったと思います。

同時に、私たちも日本から多くを学びました。そのひとつが、デザイン・ランゲージ(デザインの考え方や美意識)です。アメリカの店舗の多くは日本の建築家が設計していますし、陶器のカップやプレート、パッケージなども日本で作られたものをアメリカに持ち帰って使用しています。つまり、クラフト的な要素の多くは、日本のものをアメリカに輸出しているんです。

大井: スペシャルティコーヒーやクラフトチョコレートは、今や単なる“おいしい食べ物”を超えた存在になり、環境問題、サステナビリティ、透明性などへの意識を高める役割も果たしていますよね。チョコレートを通じて、お客様にどんな気づきやメッセージを届けたいですか?

トッドさん: 多くの人は、自分が食べているチョコレートがどこから来るのかを知りません。ただの“茶色くて甘い食べ物”だと思っています。でも実は、チョコレートにはワインやコーヒーよりも複雑な味わいがあります。遺伝的な違い、フレーバーの多様性、焙煎の方法、そして新しいアプローチを試す人々の存在……本当に奥が深いんです。

だから私たちは、農園、カカオ豆、チョコレート、そして私たち自身とのつながりをお客様に感じてもらいたいと思っています。そうしてお客様と対話をしながら、チョコレートの背景を共有したいんです。

エレインさん: チョコレートもコーヒーも、“同じ味に揃える”ことは実はとても簡単なんです。そして長い間、特に産業化が進む中では、それこそが重視されてきました。

でも私たちの目標は、クラフトの個性やスペシャルティ性に焦点を当てて、人々をそのストーリーとつなぐことです。

だから私たちはすべての収穫ごとにチョコレートを作っていて、それは年ごと・季節ごとに本当に違う味になります。でもその違いを焙煎やブレンドで隠してしまうことはしません。むしろそのまま活かして伝えたい。

そして、収穫年や産地ごとの違いを味わえることは、とても特別なことだと思うんです。人々は、そうした“つながり”を求めていると思います。

たとえ産地に直接行けなくても、その味を通して生産者とつながりを感じられる——それこそが、私たちが大切にしていることです。

写真提供:ダンデライオン・チョコレート

大井: 最後に、これからの目標を教えてください。

トッドさん: まだ“本当においしいクラフトチョコレート”を体験したことのない人が、世界にはたくさんいます。私たちは、できるだけ多くの人にこの新しいコンセプトを紹介し、チョコレートの世界にワクワクしてもらいたい。そして、さまざまな形のチョコレートを通して人を幸せにしたいと思っています。

最終的には、世界で最も尊敬されるチョコレートカンパニーのひとつになることを目指しています。いま、少しずつ、その道を進んでいるところです。

エレインさん: 文化的な観点から言うと、アメリカの文化は日本の文化に比べてとても若いと思います。日本には、何世代にもわたって技を受け継いできた職人がたくさんいて、それが文化の中で非常に重要な役割を果たしています。一方で、アメリカにはそのような“継承されるクラフト文化”はあまり根づいていません。

アメリカという国自体が新しい国なので、歴史が浅いんです。だからこそ、チョコレートを通して“クラフトマンシップ”をアメリカ文化の中で広めていくチャンスがあると思っています。

もちろん、アメリカにもチョコレートの歴史はありますが、これまではどちらかというと工業的な大量生産の歴史でした。そのせいで“本当のクラフト”が育つ機会が少なかったんです。だからこそ、これからはそのクラフトマンシップをアメリカ文化の中に根づかせていきたいと考えています。

大井: 今日は貴重なお話しをありがとうございました!

トッドさんエレインさん:こちらこそ、ありがとうございました!

左からエレイン・ウェリーさん、トッド・マソニスさん、大井(CafeSnap)

 

◆ダンデライオン・チョコレート
HP:https://dandelionchocolate.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/dandelion_chocolate_japan/

インタビュー・文:Ayako Oi(CafeSnap)
撮影:RIN
写真提供:ダンデライオン・チョコレート
場所:ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前

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