2025年4月、奥渋エリアにオープンした「NIGIHAYAHI TEA(ニギハヤヒティー)」。「世界のお茶をまるでコーヒーのように抽出するお茶専門カフェ」として新たな挑戦を始めたのは、スペシャルティコーヒーの名店・猿田彦珈琲の立ち上げメンバーとして10年以上にわたりバリスタとして活躍した前寺祐太さん。前寺さんが描く、お茶とカフェの今・未来とは。

 

まるでコーヒーのようにお茶を淹れるカフェ「NIGIHAYAHI TEA」

「『ニギハヤヒ』というのは、今の自分の大切なルーツである『猿田彦珈琲』の猿田彦と同じ、日本神話に登場する神様の名前です。猿田彦珈琲をきっかけに、自分と縁(ゆかり)ある神様を調べてみると、不思議なくらいすべてが『ニギハヤヒ』に結びついたんです」

“ゼンジ”さんの愛称で親しまれ、2011年の猿田彦珈琲立ち上げ当初から長く同店でバリスタとして活躍してきた前寺祐太(まえでら ゆうた)さんがまず話してくれたのは、そんな古巣への敬愛が込もった、店名にまつわるエピソードでした。

幼い頃から親しんだ神社で祀られていたのがニギハヤヒにつながる神様だったこと、ニギハヤヒが猿田彦とも縁がある神様だったことなどが店名の由来

今年4月、東京・奥渋エリアにオープンした「NIGIHAYAHI TEA(ニギハヤヒ ティー)」。立て看板には「世界中のお茶をまるでコーヒーのように抽出するお茶専門のカフェ」と書かれているとおり、前寺さんはここで、スペシャルティコーヒーではなく「お茶」を淹れています。

とはいえ、視界に入るすべては本格コーヒーショップさながら。店の正面にはコーヒードリッパーとケトルが並ぶほか、最新型のエスプレッソマシンやバリスタ御用達のグラインダーまで、どれもがコーヒーショップで使われるツールばかり。オーダーを受ける度にグラインダーで茶葉を挽き、1杯1杯抽出して提供するスタイルは、彼が長く身を置いたスペシャルティコーヒーの店となんら変わりありません。

オーナーの前寺祐太さん

「ベースは、コーヒーの抽出技術を応用したハンドドリップティーとティーエスプレッソ。“元コーヒー屋”として、これまで蓄えてきた抽出理論や、今なお加速度的に進化し続けるコーヒーの技術やトレンドを、お茶に落とし込んでいきたいと思っています」

 

転身のきっかけは、心を潤すお茶との出合い

今も変わらず猿田彦珈琲やスペシャルティコーヒーを愛する前寺さんが、お茶の世界へと転身したきっかけは、バリスタ時代に出合った台湾茶だったといいます。

当時、猿田彦珈琲の台湾店全6店を現地で統括していた前寺さん。しかしコロナの影響で店の状況が変化し、自身の無力感やストレスからコーヒーと距離を置かざるを得ない状況に。そんなとき、台湾の友人が届けてくれたのが台湾茶の名産地・阿里山のお茶でした。

「コーヒーが脳に刺激や覚醒を与えてくれるものだとすれば、お茶は心にゆっくり広がってピュアにしてくれるような感覚というか。すごく感動したのを忘れもしません」

「店を始めるにあたり真っ先に相談したのは『しもきた茶苑大山』の大山泰成さん。感謝してもしきれません」。扱う茶葉も大山さんに焙煎を委託する

ところがいざ街中でお茶を飲みたいと思っても、その時の台湾には格式ある専門店がほとんどで、品質のいいお茶がラフに楽しめる場所になかなか出合えなかったそう。「スペシャルティコーヒーのように、どんな人も気兼ねなく立ち寄れる、お茶のスタンドやカフェがあればいいのに」。そんな想いを強くしていきました。

 

“元コーヒー屋”の視点から、ストイックに導き出したお茶の抽出メソッド

一方で、長くバリスタの立場から広くカフェ市場を見てきた前寺さんには、ある懸念も。それは、もし自分がお茶をメインにしたカフェをするにしても、急須や中国茶器といった伝統的な道具を使いながら「気軽さ」がつくれるノウハウもなければ、かといって、ティープレスやポットにお湯を注いでカジュアルに淹れるお茶に、1杯700〜800円の価値付けをできる自信がなかったこと。

おいしいお茶の確かな価値を伝えつつ、人々が集い楽しむ場をつくるにはどうすればいいのか……。たどり着いた答えが、自身が10年以上にわたり培ってきた、コーヒーの抽出理論の応用でした。

ドリッパーは「OREA」を採用。途中で湯の温度を変えながらドリップする

「あえて技術を介し、プロにしか淹れられないお茶ができれば、スペシャルティコーヒーと同じような市場が生まれるのではないかと考えました。かなり精緻に味づくりを研究しないといいものは作れないと覚悟はしていましたが、同時に『新しいものができるはず!』と、期待と楽しみしかなくて。いかにコーヒーに近いかたちでお茶が淹れられるか。その追究に、懸けてみたいと思ったんです」

「淹れる」というプロセスにおいて、コーヒー業界が経てきた発展は確かに目覚ましいものといえるでしょう。数え切れないほどの国内外の先人たちが、技術・プロダクト面ともに研究を重ね、飛躍的な進化を遂げてきたコーヒー。自身がその前線で腕を磨いてきたこと、そもそもお茶の知識を持ち合わせていなかったことも重なり、前寺さんはコーヒーの抽出技術をお茶に応用するという、新たな挑戦に乗り出しました。

エスプレッソマシンは気圧調整も可能な「BARISTA ATTITUDE STORM」。コーヒーの技術を応用すると抽出時間が短くなるメリットも

始まったのは、毎日ひたすらお茶をドリップしては飲み比べる日々。ハンドドリップもエスプレッソも、基本的なセオリーが確立されているコーヒーとは違い、茶葉や湯の量、挽目の粗さ、抽出時間・温度まで、すべてが0からの手探りです。

オープン前の2年間は、一つ一つ条件を変えては飲み変えては飲みを繰り返し、行き詰まる度に、コーヒー業界の最前線で活躍する名バリスタたちの抽出理論を参考にしたり最新のコーヒートレンドを取り入れたりしながら試行錯誤。毎日10杯以上、計何千通りものレシピを試し、ようやく“コーヒーの技術で抽出するお茶”のメソッドを導き出しました。

「今、コーヒーの生産者の多くは、自国の産業に誇りを持っています。日本茶をつくっている僕ら日本人も、そうあるべきだと思うんです。将来的には『日本茶』のマーケットの一端を担える存在になりたい。そのためにも、なんとかこの抽出メソッドを確立したいと思いました

花や果実の香りを移す蒸留水も自家製。コーヒー業界でもまだ取り入れられていない最新の手法も採用する

 

目指すは日本茶マーケット拡大への貢献。そのためには少し遠回りも必要

『NIGIHAYAHI HOJI』は、急須で淹れたお茶よりとろみのある質感に。渋みがなく甘さが引き立つのも特徴

こうして生み出されたのが、現在のニギハヤヒのラインナップ。ハンドドリップティーには、静岡県産の紅茶と、愛媛県産の烏龍茶・紅茶をブレンドして焙煎した『NIGIHAYAHI HOJI』と、季節のシングルオリジンティーを。ティーエスプレッソは、台湾烏龍茶と静岡県産の紅茶のブレンドでつくる3種のラテをそろえ、そこに唯一、抹茶碗で点てる抹茶ラテを加えた計6種にグッと絞りました。

『オリエンタルチャイ』(左)には花椒と柑橘の蒸留水、『薔薇香る黒糖ラテ』(右)には薔薇の蒸留水を使用。シロップにするよりもフレッシュな香りが楽しめる

「『日本茶』のマーケットの拡大」という未来像を描きつつ、アレンジドリンクの比重が高めなことや、台湾茶や中国茶など世界のお茶を取り入れる理由は、「大きな目的の達成のためには、順序立てて歩みを進めて行く必要がある」と考えるから。前寺さんは、今はまず、種類や飲み方にこだわらずに取っ掛かりをつくり、「お茶を飲む」「興味を持ってもらう」段階だと話します。

「猿田彦珈琲時代にも、アレンジドリンクからドリップコーヒー、シングルオリジンへと着実にステップアップしていくお客さまの姿を幾度となく目の当たりにしてきました。『飲む』という行動を促すことがどれほど大切かは、猿田彦珈琲で得た大きな学びのひとつです

メニュー数を絞るのも、お客さまが難しさを感じることなく直感的に選べるようにするため。「『日本茶』の前に、まず『お茶』から」。一見すると少し遠回りに思えるかもしれませんが、こうした気配りをたくさん散りばめることが、すべての土台になるといいます。

「猿田彦珈琲も、アレンジドリンクを入口にして多くのお客さまにスペシャルティコーヒーを広めてきた。代表の大塚さんは本当に尊敬しています」

 

誰かの暮らしの一部に「お茶」を届けられるカフェに

オープンから3ヵ月、想像以上に多くのお客さまに楽しんでもらっていることに、今は驚きを隠せないという前寺さん。潜在的なお茶の需要の高さに加えて、生活の中で気負わずに立ち寄れる「カフェ」という存在が求められていることも強く実感している、とも話してくれました。

スペシャルティコーヒーやお茶は、それを好きで飲みたいという目的である一方、友人や家族とつながるための仲介役でもあり、自分と向き合う場所を得るための手段にもなり得るもの。ニギハヤヒがここで目指すのはまさに、そんなカフェとしての店の姿です。

奥のスペースは前寺さんがフランスで出合ったカフェをイメージし、友人や家族と集えるスペースに

コーヒーツールで淹れるお茶の抽出メソッドが、茶業界、バリスタ、カフェ開業を目指す人々に広く浸透すれば、日本茶、そしてお茶のカフェやスタンドのマーケットは大きく変わっていくでしょう。前例がないものを一から組み立て、新しい時代をつくる……。そこには計り知れないエネルギーを要するはずですが、それでも、前寺さんは最後にこんな言葉で締めくくりました。

「猿田彦珈琲の立ち上げにジョインさせてもらっていたときも、まだコーヒースタンドの前例がほとんどなかった時分に、新しいものをつくっていく感覚がすごく楽しかった。今度は自分が、お茶で、それに挑戦させていただきたいという気持ちです。猿田彦珈琲で得たたくさんの知識・技術・縁を、お茶に昇華できればいいなって。最終的には『日本茶』をしっかり売れるような存在になりたいですね」

フードはスコーンやマフィンなど焼き菓子を数種類ラインナップ

 

◾️NIGIHAYAHI TEA(ニギハヤヒ ティー)

住所:東京都渋谷区神山町12-2 星野ビル 1階
営業時間:11:00〜18:00
定休日:月曜日
SNS:https://www.instagram.com/nigihayahitea

 

文・写真 : RIN
インタビュー : 大井彩子(CafeSnap)

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