2017年9月15日、米国のブルーボトルコーヒーは社外投資家が持っていた68%の株式をネスレに譲渡し、その傘下に入ることを発表しました。CafeSnapは9月末に日本を訪れていた創業者でチーフ プロダクト オフィサーのジェームス・フリーマン氏とCEOのブライアン・ミーハン氏にその背景を伺いました。
2002年にサンフランシスコのファーマーズマーケットからスタートしたブルーボトルコーヒーは今年で創業15年。日本の喫茶店文化にインスパイアされ、当時、アメリカでは珍しかった日本式のハンドドリップなどを採用したことで、アメリカで急成長を遂げました。2015年春には第一号店として清澄白河に上陸。現在、6店舗を経営しています。
すべてのドリンクや店舗設計には、チーフ プロダクト オフィサーのジェームス氏が関わり、複数の店舗展開をしながらも“作り手の想い”と“ホスピタリティ”を大事にしているブルーボトルコーヒー。今回、ネスレ傘下に入ることを決めた理由を創業者のジェームス氏とCEOのブライアン氏に伺いました。
今回の発表がされてすぐ、ネット上では「ネスレ、ブルーボトルを買収」というヘッドラインが流れました。そのヘッドライン“だけ”を見ると、まるで「ブルーボトルはこれまで積み上げてきた全てをネスレに売ってしまった」ように見えてしまったのですが、実際はどうなのでしょうか?
ジェームス氏:ブルーボトルコーヒーのビジョンである「おいしいコーヒーをより多くの人に届ける」、により一層集中していくために、ネスレグループの傘下に入ることを決めました。私たちは今後も、ネスレグループの中で、独立した組織として経営を続けていきますし、今回の件によってブランドを変えることはありませんので、どうぞ安心してください。
これからもブルーボトルコーヒーは、私(ジェームス・フリーマン)やブライアン・ミーハンを始めとする経営陣が引き続き陣頭指揮をとり、創業以来変わることのない3つの企業理念「デリシャスネス」「ホスピタリティ」「サステイナビリティ」を掲げて、事業を展開していきます。
ネスレの傘下に入ることは、ブルーボトルコーヒーにどんなメリットがあるのでしょうか?
ブライアン氏:ネスレとパートナーシップを締結したことによって、コーヒーに関する革新的な技術の習得、新しい国やエリアへの進出、デジタルプラットフォームの強化、商品ラインアップの拡充などが実現し、おいしいコーヒーをより多くの人に届けることができるようになるとワクワクしています。また、ネスレもそのような世界を実現するために、私たちに声をかけてくれました。
今後、ブルーボトルコーヒーのインスタントコーヒーやコーヒーマシン用のカプセルコーヒーを販売する予定はありますか?
ジェームス氏:いずれも予定はありませんし、ダブルブランドでコーヒーや商品の開発や販売をする予定もありません。これまで通り、独立したブランドとしてコーヒーを提供していきます。
多くの人に支持されているブルーボトルコーヒーですから、きっと様々な企業から声がかかっていたと思います。様々な企業がある中で、ブルーボトルコーヒーはなぜネスレを選んだのでしょうか。
ブライアン氏:ネスレはブルーボトルコーヒーを愛し、私たちが大事にしていることをリスペクトし、ブランドや従業員に多大なる信頼を寄せてくれています。
また、2017年1月にネスレの代表に就任したマーク・シュナイダーと話を重ねるたびに、お互いが同じビジョンに向かって進んでいるという認識を持つことができたので、グループ傘下に入る決断をしました。
私たちはこれまでも、自分たちの商品に自信を持ってここまで大きくなってきました。日本進出の際にもたくさんの企業様からライセンスのお話をいただきましたが、私たちが“私たちの信じるコーヒー”を提供し続けられるよう、あえてライセンスではなく自分たちで子会社を作り日本への進出を図りました。私たちの決断の背景には、いつも「美味しさへのこだわりと追求」があります。今回も、そのための決断と思っていただけたらと思います。
どれくらい前からこの話はされていたのでしょうか。どのようなきっかけでこの話は始まったのでしょうか?
ブライアン氏:2017年春頃から話を進めていました。もともとどこかの企業の傘下に入ることを考えていたわけではないのですが、資金調達をしている中でネスレ社より今回の話をいただきました。
また、ネスレは今、ミレニアム層の獲得や、リテールビジネス、北米地域の強化などに注力していて、そうした中でブルーボトルコーヒーを傘下に入れることで、多くのメリットがあると考えたそうです。
サードウェーブコーヒーを代表する、Stump Town Coffee(スタンプタウンコーヒー)やIntelligentsia Coffee(インテリジェンシアコーヒー)も、2015年にアメリカの大手コーヒー企業のPeet’s Coffee & Tea(ピーツコーヒー&ティー)の傘下に入りました。また彼らも以前は、資金調達をしていました。
日本ではあまり事例がありませんが、アメリカでは、コーヒー店が資金調達をしたり、大手の傘下に入るケースが増えてきているのでしょうか? また、なぜそのような動きをするのでしょうか?
ジェームス氏:ブルーボトルコーヒーは、ビジョンである“おいしいコーヒーをより多くの人に届ける”を実現するために事業を展開しています。それを実現するためには、新規出店や商品開発、オンラインなどを推進するための資本や人的リソースが必要で、そのためにこれまでも資金調達を実施してきました。今回私たちがネスレグループ傘下に入ることを決めたのも、同様の理由です。
アメリカではコーヒーに限らず、地元でファンの多い小さなブランドが資金調達をしたり、大手企業のグループに入ることが増えてきています。例えば、 チーズ専門店Cowgirl Creamery(カウガールクリーミー)のEmmi AG(エミー エージー)傘下入り、クラフトビール店Lagunitas(ラグニタス)のHeineken(ハイネケン)傘下入りも同様です。
日本でもコーヒー以外の業界ではそういった動きは一般的だと思いますが、米国のスタートアップ企業は、大手企業の資本力やリソースを活用して、自らのミッションの実現を目指していくことが、日本に比べて活発です。
また、大手企業にとっては今、勢いのあるベンチャー企業から“新しいアイデアや革新的な技術”を学ぶことで、彼らのビジネスをより価値あるものにしたいのだと思います。
今回のことは、私が喫茶店に感銘を受けて創業し、そのやり方にこだわってやってきたことが「世の中に認められた」のだと感じています。そしてそれは、スペシャルティコーヒーがトレンドから文化になっていることを表しているようにも思います。
これからのブルーボトルコーヒーが実現していきたいことを教えてください。
ジェームス氏:ブルーボトルコーヒーは今後、“おいしいコーヒーをより多くの人に届ける”というビジョンを達成するために、新しいエリアや国への出店を加速させ、その他ビジネスについても拡大させていく予定です。日本では2018年春、京都に進出します。その後も、東京や関西エリアでのさらに店舗を増やし、積極的に事業を拡大していきます。
アメリカのブルーボトルコーヒーのサイトで、ジェームスさんとブライアンさんが書かれていたブログを拝見しました。最後には書かれていたこの文章に特別な意味が込められているように感じました。
「We’re not going anywhere. We’ve been asked to stay true to who we are. (私達はどこにも行きません。私達らしく誠実であり続けます。)」
この文章を書かれた背景には、どんな想いがあったのでしょうか?
ジェームス氏:ブルーボトルコーヒーがネスレグループ傘下に入ることによって、ブルーボトルコーヒーのブランドが変わってしまうのではないかと懸念を示す方がいらっしゃるかもしれないと考えて、メッセージを書かせていただきました。
「私たちはこれからも独立した組織として運営していきます。ネスレグループ傘下に入ることでブランドが変わることはありません。私たちは今後も、信じることそして正しいと思うことを追求し続けます」
その考えに合意していただいた上で、ネスレと話がスタートしているということを改めてお伝えしたいです。
日本の皆さんへメッセージをどうぞ。
ジェームス氏:私は15年前に、“おいしいコーヒーをより多くの人に届ける”というビジョンを掲げ、ブルーボトルコーヒーを創業しました。私たちは、1杯ずつ丁寧にいれる日本の喫茶店を尊敬しており、その文化を取り入れ、お店を発展させてきました。私たちのこだわりをあえて一番目の厳しい国でチャレンジすることで、もっとブランドが強くなると考え、アメリカに続く2カ国目を日本に選びました。
ネスレはブルーボトルコーヒーを愛し、私たちが大事にしていることをリスペクトし、ブランドや従業員に多大なる信頼を寄せてくれています。私たちは今後も、ブルーボトルコーヒーのビジョンやブランドを変えることはありません。
ブライアン氏:ブルーボトルコーヒーが今のまま、サステイナブル(持続可能)に経営を続けていくこと、それが私の責任です。“おいしいコーヒーをより多くの人に届ける”というビジョンを達成し、スペシャルティコーヒー界のグローバルリーダーを目指すという長期的な目標に向けて、これから食品業界世界最大手のネスレと一緒に仕事ができるのを楽しみにしています。そして2018年春、京都に進出します。その後も、東京・関西エリアでのさらなる出店や他エリアへの進出など積極的に事業を拡大していきますので、ご期待ください。
コーヒー
中目黒カフェ
住所:東京都目黒区中目黒 3-23-16
営業時間 : 8:00 ~ 19:00
定休日 : なし
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Photo:Kenichi Yamaguchi (JAMANDFIX)
Interview&Writing:Ayako Oi(CafeSnap)