街の人が集う旧診療所をリノベーションして作られた三軒茶屋カフェ
きれいな秋空が広がった2017年10月27日(金)、ブルーボトルコーヒーは日本で7店舗目となるカフェを三軒茶屋にオープンしました。三代に渡って引き継がれてきた旧診療所をリノベーションした三軒茶屋カフェは、ブルーボトルコーヒーらしいシンプルで洗練された色使いと、歴史を積み重ねてきた建物をそのまま活かしたコントラストが魅力の店舗です。
美しさと無骨さのイメージを“音楽”で共有しデザインを設計
カフェの空間デザインは、ブルーボトルコーヒーの店舗をこれまでも手がけてきたスキーマ建築計画の長坂 常氏が担当。チーフ プロダクト オフィサーのジェームス・フリーマン氏は、アメリカの作曲家、エリオット・カーターの荒い呼吸と穏やかな呼吸を表現した楽曲「Esprit Rude」を長坂氏に送り、そこからイマジネーションを膨らませて、デザインに落とし込んでいったとのこと。
床には店舗の縁を囲むように細かな砂利石がしかれており、日本庭園の雰囲気も。三軒茶屋という土地柄、地元の人々が休憩できる“お茶屋”のような場所にしたいという想いが込められています。
日本初出版となる書籍「ブルーボトルコーヒーのフィロソフィー」も発売
三軒茶屋カフェのオープンにあわせて発売となったのが、日本で初めて出版された書籍「ブルーボトルコーヒーのフィロソフィー」。2012年にアメリカで出版されているこの書籍では、ジェームス氏の創業ストーリーはもちろん、コーヒーが生産される農園、焙煎、様々な器具を使った抽出、そしてジェームス氏の奥様でパティスリーシェフのケイトリン氏によるペイストリーのレシピが30以上も掲載されています。
書籍の中では、美味しいコーヒーを作るために「焙煎と抽出をどのように追求してきたのか」といったコーヒーの話から、クスッと笑える創業当時の失敗談、ジェームス氏がリスペクトする渋谷の喫茶店「茶亭 羽當」について、また日本でも多く見かけるようになった「ジブラルタル」の誕生秘話なども紹介。今年で創業15年となるブルーボトルコーヒーがどのように成長を遂げてきたのか、これまで詳しく語られることのなかった、ジェームス氏のモノづくりの姿勢やこだわりが丁寧に綴られています。
今回は、書籍出版にあたりCafeSnapの大井がインタビュアーをつとめたジェームス氏のトークイベントの様子を一部ご紹介します。
当時は珍しかった“一杯ずつ淹れるコーヒー”を始めた理由
大井:書籍冒頭の「イントロダクション」の章では、ジェームスさんがクラリネット奏者として働かれていた時のことが書かれていますね。2001年に演奏家を辞めてコーヒー作りを始めたわけですが、様々な選択肢がある中でなぜコーヒーを選ばれたのでしょうか?
ジェームス氏:20年ほどクリネット奏者をしていましたが、完璧主義の傾向がある私は、自分自身を良くも悪くもない演奏家だと見ていて、そのキャリアにはあまり満足していませんでした。
コーヒーは以前から好きで、演奏家をしていた時は趣味として、自宅のオーブンでコーヒーを焙煎していました。豆や焼き方を変えて、味の違いを試す実験は楽しかったですね。
私がコーヒーを始めた頃、住んでいるサンフランシスコでは、新鮮な食材に関心が集まるムーブメントが起こっていました。コーヒーは作り置きしたものがポットから提供されることが一般的でしたが、私は「野菜やフルーツと同じく体に入るものだから、コーヒーもフレッシュであるべきではないか」という考えを持っていました。そのアイデアから “一杯ずつコーヒーを淹れるスタイル”で店を始めることにしたのです。
ビジネスマンではなかったからこそ、面白いと思ったことに挑戦できた
大井:創業当時は、失敗もたくさんあったと書籍に書かれていますね。「焙煎」の章では、思わず笑ってしまったのですが、「本格的な焙煎を始めようとしていた頃、焙煎機をDIYで作ろうとしていた」という話がありました。釜を組み立て、ランニングマシーンをつないで、ご自身や愛犬が走った原動力で豆を焼こうとしていた……と!
ジェームス氏:はい、それが私のビジネスプランだったんですよ(笑)。
大井:「天才的なアイデアだと思っていた」と書かれていましたね(笑)。
ジェームス氏:私はビジネスマンの経験がなかったので、現実的にビジネスを考えるよりも「こうしたら面白いんじゃないか」と思ったことを常に大切にしてきました。今考えるとおかしなこともあったと思いますが、それは面白いスタートでしたね。
何千回と繰り返し練習した先に身につくのが、本物の技術
大井:様々なコーヒー器具を使ったコーヒーの淹れ方を紹介している「抽出」の章では、読者の方に向けて「Practice(練習しましょう)」という言葉が多くでてきたのが印象的でした。ジェームスさんも書籍で紹介されている抽出のレシピに辿り着くまでに何度も練習をされたのでしょうか?
ジェームス氏:私は音楽家として、毎日何度も何度も同じ曲を練習する、という人生を送ってきました。それと同じようにコーヒーも、毎日トライ&エラーを繰り返し、少し進歩してはメモをとって、焙煎と抽出を改善してきました。
物事を本当の意味で理解するには、毎日の練習が必要です。数回、数十回の練習では音楽家の背景がある私からすると全く足りません。「美味しいコーヒーを淹れたい」という想いを持って、何千回と繰り返して、初めて理解し、技術が身につくものだと考えています。
自分の中で答えを導きだすことの重要性
大井:ジェームスさんが焙煎や抽出を本格的に始めた頃は、ネットが広く普及はしていなかったので、「日ごとに変わっていくコーヒーの味を夢中で研究した」と書かれていましたね。
ジェームス氏:今のように、検索をすればすぐに答えがでてくる環境は素晴らしいですが、私がコーヒーを始めた頃はネットがあまり普及しておらず、自分で研究して自分の中で答えを導き出すしかありませんでした。もしあの時にネットがあったら、私は正しい答えや誰かの考えに引っ張られて今とは違う方向を目指していたかもしれません。だから私はあの当時にコーヒーを始められてよかったなと感じています。
大井:農園、焙煎、抽出、レシピとたくさんの情報が丁寧に綴られている書籍ですが、中でもジェームスさんがお気に入りのページがあれば教えてください。
ジェームス氏:「レシピ」の章に登場する、妻のケイトリンが作ってくれたチョコレートマカロンのページですね。チョコレートマカロンはふたりにとって特別な思い出があり、それも書籍の中で紹介しています。
大井:最後に読者の方にメッセージをお願いします。
ジェームス氏:「ブルーボトルコーヒーのフィロソフィー」は、アメリカで2012年に出版した書籍です。コーヒーの抽出レシピなど、当時から進化・改善を加えているものもありますが、この本には当時の私が考えて大事にしてきたことが詰まっています。ぜひそれを楽しんでいただけたらと思います。
◆ブルーボトルコーヒー 三軒茶屋カフェ
住所:東京都世田谷区三軒茶屋1-33-18
営業時間:8時~19時
HP:http://bluebottlecoffee.jp/
◆書籍「ブルーボトルコーヒーのフィロソフィー」
価格:3888円(税込)
販売店舗:ブルーボトルコーヒー全店舗およびオンラインストア、日本全国書店、Amazon.co.jp
Interview&Writing:Ayako Oi(CafeSnap)